ボール
お笑い芸人を夢見る二人がここに。
「なぁ、そろそろ夏真っ盛りだしさぁ、ネタも幽霊ネタとかいかないか?」
「お!いいねぇ……けど、やっぱり幽霊ネタって苦手な女の子多くないか?笑ってくれればいいけどさ」
「そこが俺らの腕の見せ所だろ!!笑いを目指すなら、幽霊ですらも笑わせないと!!」
「確かに一理あるな」
「じゃあ決まりな!!どんなんにするか~」
「やりやすいのは漫才よりコントかな」
「お前幽霊やんの?」
「おい、確定かよ。お前がやるって選択肢はないのか(笑)」
「あれはどうだろ……都市伝説のひとつによくあるやつでさ、夜中にサッカー少年が現れるんだよ」
「どこに?」
「学校の校庭。で、それを見かけた教師が声をかけると、少年がボールを蹴りながら近づいてくる……」
「で?」
「少年が蹴っているのはボールじゃなくて、なんと自分の頭!……ってオチ」
「う~……ん。それをどうやってコントにするんだ?」
「ボール役の奴は頭だけ出してボールの役目して、後は教師?」
「肝心の少年がいないじゃん!!」
「う~~ん、3人いないと無理か…」
「いや、それ以前に」
「ん?」
「そのボール=頭って奴、既にバスケでネタやってる芸人いるから」
「そっか、頭=ボールはパクりになるのかあ……駄目じゃん!!」
「俺、今いいネタ浮かんだ」
「お?」
「けど、コントっていうより一発芸に近いかな……」
「どんなんだよ」
「お前はただ黙ってそこに立っててくれればいいだけの、楽なコントだよ」
「マジで!?俺いっつもネタ噛んだりするから、そりゃ楽でいーや!んじゃそれでいこ~♪♪」
「ブラックジョークに近いからなぁ……観客笑ってくれるかなぁ……」
「何事もモノは試しさ!」
「そーだよなぁ。それじゃ、その一発芸でいこう」
「いつも悪いな!……今回も事前準備は任せるわ~♪お前のネタだしな!!」
***
俺の右目に激痛が走るのと、観客の悲鳴は同時にあがった。
隣では相方が変わらぬ口調で話し続けていたが、俺は右目のあった辺りを押さえたまま、のたうちまわっていた。
痛い、痛い、痛い――――!!!!!
「じゃあこれから、卓球を始めますか♪丁度いい大きさのボールも見つかった事だし……って駄目やん。これ、弾まないわ~~」
倒れている俺の頭上で、ビチャッと何かが落下して潰れた音がする。
「じゃあしょうがない、次は……」
まさか。と思った。
相方の手が、残っている左目に伸びたかと思うと、更に一際大きな悲鳴があがった。
「よし、弾まないボールといえばゴルフボールだよね♪どれくらい飛ぶのかなぁ~?」
真っ暗な視界の中で、無情な音と人々の逃げ惑う音が聞こえる。
ブンッ
ぐちゃ
「駄目やん。これ、硬度なくて潰れるわ~」
俺の命は助かったが。
二度と視界がひらける事はなかった。