表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/139

家の電話の呼び出し音が鳴った。



私は、普段通りに電話に出る。



すると、同い年位の、知らない女性の声で



『お願い信じて……貴女はもうすぐ死にます。』



と言われた。



私はタチの悪い悪戯だなと思い、その女性に



『もし助かりたければ「なんの悪戯か知りませんが、もうかけてこないで下さい、訴えますよ」



と、女性の話しを遮って電話を切った。



もし助かりたければ……この霊力のあるツボを買え、とか言われたのだろう。



使い古された詐欺の類いか、馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。



ところが、また直ぐに電話が鳴った。



出ようか出まいか一瞬悩んだが、結局受話器を取った。



『お願い信じて!貴女はもうすぐ「いい加減にしないと訴えますよ!!」



私は最後まで話しを聞く事なく、受話器をたたきつけた。



また電話がかかってくるかと身構えていたが、その日はもう、その悪戯電話がかかってくる事はなかった。



私はその後普段通りに過ごしたが、悪戯電話のせいで嫌な気持ちは一日中消えなかった。



子供は修学旅行に出ていていなかった為、しばらくして帰って来た旦那に、その悪趣味な悪戯電話の話しをして気を晴らそうとしたが―……話しながら、気付いた。




――私は、似たような話しを、誰かと、した事がある。



誰と?いつ?



記憶を辿ると、そこには5年程前に交通事故で亡くなった、自分の父親の存在が浮かび上がった。




***




5年程前、私は子供を連れて実家に帰っていた。



皆がリビングで団欒していると、電話が鳴ったのだ。



はじめ、たまたまトイレから出て、一番電話近くにいた父親が、その電話に出た。



すると、すぐに「ふざけるな!!」と怒鳴り、電話を切ったのだ。



皆が驚いて、何事かと父親に聞くと、単なる悪戯電話だ、と言った。



そして、その時もまた、電話が再度鳴ったのだ。




その時私は、父親の機嫌がこれ以上悪くなるのを避けようと、自分が電話に出た。




その声を聞いて……心から、驚いた。





『頼む!信じてくれ!!』



受話器から聞こえてきた声は、今、目の前にいる父親の声そっくりだったのだ。



私は混乱して、「え?…どちらさま?」と聞いた。



すると、相手はこう言ったのだ。



『頼む!時間がないんだ、車には乗るなと伝えてく――』



そこで、電話は切れた。




「お父さん、なんだか……今の電話相手が……車に乗るなって……」

私は恐々父に話し掛けたが、



「明日はゴルフだ。そんな訳にいくか。というよりそんな悪戯電話、真に受けるな。」


と、父親は一刀両断した。




ところが次の日。






父親は、ゴルフに向かう途中の高速道路で玉突き事故に遭い、亡くなった。





そうだ……電話の主は、確かに車に乗るなと言ったのだ。




今日かかってきた電話は、何と言うつもりだったのか……じんわりと焦燥感に駆られた。




***




気がつくと、まるでホテルのロビーの様な場所に私は立っていた。




え?家で寝ていたハズなのに…?




驚いてその場に立ちすくみ、周りをキョロキョロと見回す私に、そのホテルの支配人?の様な人が声を掛けてきた。




「ようこそ、判決の館へ」



穏やかな話し方は私に安心感をもたらしたが、その次に続く言葉はとんでもないものだった。




「貴女は、先程お亡くなりになりました。ここは転生するか否かを決める判決の館ですが……貴女は、特殊な家系にお生まれですね。開く扉が決められている」




その、支配人?の言っている意味はちんぷんかんぷんだったが、




貴女 は 先程 お亡くなりに なりました




と、言ったのだけはわかった。

理解したい内容ではなかったが。




私の戸惑いをよそに、支配人?は説明を続けた。



「貴女は特殊な家系にお生まれです。

この黒の扉を開けて頂く前に、一つのチャンスを与えられる様ですね。


貴女の家系に許されるチャンスとは、電話です。


10秒なら、1度。


5秒なら、2度。



……さあ、おかけ下さい」



私はうろたえながらも、目の前に置いてある昔ながらの黒い電話を見つめた。




ホントに最後なら、娘と旦那にかけるか……



そこで、一つの可能性に気付いた。



「時間を遡って、電話をかける事は……」


「可能でございますよ」




私は、寝ていたハズだ。


何故、死ぬ事になったのだろう……?


仮に、火事や強盗や地震だったとしても、確実な事は1つ。




――私は、家にいてはいけないのだ――




私が仮に、自分の助言を聞いて家を空ける事が出来れば、生き延びるのだ。



そうすれば、子供とも旦那とも、これからも会話が出来る。




私は、二度にわけて過去の自分に電話をかける事に決めた。



震える指で、電話をまわす。



とにかく、端的に済ませなければならない。

切られたらおしまいだ。



相手(私)が応対したので、「お願い信じて……貴女はもうすぐ死にます。」と言った。



けれども、肝心の「家にいるな」という部分を言う前に、悪戯だと思われて切られてしまった。



悪戯ではない。




信じて貰わねば……!!




もう一度、祈る様な気持ちで電話をかけた。



会話出来るのは、後5秒。




……出ない……出た!!



「お願い信じて!貴女はもうすぐ『いい加減にしないと訴えますよ!!』



過去の私は、最後まで話しを聞く事なく、受話器をたたきつけてしまった。





私は呆然とその場に崩れ落ちた。





今朝の電話の……まさに、リプレイではないか。



私の役が、変わっただけで。





……私があの時、


同い年位の、知らない女性の声


と認識した声は。




普段聞くことのない……自分の声だったのだ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ