復活の薬と勇者
僕は勇者だ。
小さな頃に、住んでいた村を魔物に襲われて両親は他界した。
一人、村から離れた塔に住む爺に育てられ、僕が15歳になった時に、教えてくれたんだ。
爺は預言者で、魔導師で。僕は勇者で、これから国……いや、世界を守る為に、旅に出るのだと。
その話を聞いて僕は、こん棒と布の服を装備して旅立った。
もっといい装備ないのか聞いたら、もっと強くなったらあげる、と言われた。
僕は何度も死にそうになったり死んだりしたが、死ぬ直前に、復活の秘薬がタイミングよく手に入れる機会があり、生き返る様に出来ていた。
両親が死んだこの世界で生き返るんだもの、それこそが勇者の証なのだろう。
月日は流れて、僕はいつの間にか何人もの仲間を連れ、姫を幽閉している魔物の中の王……魔王と対峙する事になった。
姫は世界一可愛いと言われていて、もし助け出したら嫁にさせよう、と王様から提案されていた。
仲間と一致団結して、魔王に挑んだ。
まだ僕達のレベルが魔王を倒せるか倒せないか、ギリギリのレベルだった為……大量の回復薬と、復活の薬を買い込んで。
4人の仲間が死ぬたび僕は復活の薬を使い、仲間も僕が死ぬたび復活の薬を使った。
復活の薬は復活の秘薬よりも安いが、完全回復出来ない事が難点だった。
今までは使った事がなかったが、最後の戦いになる為、質にこだわっていられなかった。
長い、長い戦いの末に。
なんとか魔王を倒し。
意気揚々と姫の幽閉されている部屋へと向かった。
***
姫は、僕達を見るなり、甲高い悲鳴をあげた。
「キャアアアアアッッッ!!!!」
僕達はどうしたのかと、顔を見合わせる。
姫はガタガタと震えて、僕達を指差し、
「ゾンビ……!!」
と言った。
僕達は復活の薬を何度も使っていたので慣れていたが、確かに腕は反対側にひしゃげて骨が見え、頭から脳みそがはみ出し、腕がドロドロに溶け、ゾンビと大差はなかったのだ。
けれども。
せっかく助けにきた勇者……しかも、伴侶に向かってそれは失礼だろう。
そういうと、姫は真っ青になって
「そんなのお父様にお話して、破棄して頂くわ!!」
と怒鳴った。
回復薬を使えばいいかと、利用してみたが……いつまでも外見はそのままだった。これが安価の理由らしい。
復活の秘薬は、世界中の物を集めてたった今、使い果たしてしまっている。
僕が呆然としていると、
「醜いゾンビなんて嫌っっ!!ここから出て行って……!!!」
と、安全なところでヌクヌクとしていた姫がそう僕等に告げた。
僕が姫に殺気を覚えたとしても、なんら不思議はない。
世界の為に、姫の為に、ボロボロになってまで……外見を著しく損なってまで、戦ったのに。
気がついたら、姫を殺していた。
そして、復活の薬をわざと使った。
仲間が止める中、僕達が魔王と戦った間に使った回数位、姫を殺しては復活の薬を使う事を繰り返した。
世界一可愛いと言われた美貌は、今や見る影もない。
ゾンビとなった勇者一行を、世界は認めなかった。勇者と宣言する前に、その姿を見た衛兵達は攻撃してくるからだ。
それは、姫を連れていたとしても――当然、同様の結果だった。
国に入る事さえ許されず、僕達は途方に暮れた。
仲間が、元々魔王の城だった場所を拠点として生活しましょう、と言い出した。
飢えを凌ぐ為、荷台を襲って、金品や食料を手に入れた。
――しばらくたった頃、耳にした噂は。
とある勇者一行が、僕達が住んでいる魔王の城に向かっているというものだった――……