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理想の足

俺は、携帯のバックライトを頼りに、寝室へと向かった。



俺の3LDKの小さな城は、新しく出来た路線の、まだ出来立てほやほやな駅近くに構えている。



高層……とは言えないマンションの、更に真ん中辺りの階だ。こんなところにも、中途半端で優柔不断な性格が顕れていると考えると笑える。



周りはまだ何もないが、当然これから土地開発が進んでいくてあろう。


俺はこの住まいを気に入っていた。




リビングの電気を消すと、辺りは暗闇に包まれた。



彼女は、いつもこの時間には先に寝ている。



それで、リビングから寝室まで携帯をライトがわりに握り締めていくのが日課になっているのである。




セミダブルのベッドには、ほっこりと盛り上がった羽毛布団が掛けられている。



その羽毛布団から……ほら今日もまた、彼女の綺麗なすらりとした足が二本見えた。



携帯のバックライトに照らされて、その足は肌色というより白に近く、陶磁器の様に、美しい。




自他共に認める足フェチの俺は、彼女の足首に惚れたと言っても過言ではない。




俺はいつも通り、そっと指先でその美しい足を触った。



ひやっとする触り心地で、それが更に気持ち良い。




毎晩恒例となっているその足に今日も興奮しながら、俺は眠りについた。




最初に彼女の足を見た時は、余りに俺好みで驚いた。



その時は衝撃すぎて、声も出なかった位だ。



俺は今、理想の足に会えて、物凄い幸せを噛み締めている。




***




ある日、友人が家に遊びに来た。



正確には、我が家を見に来たのだ。新しい城を。



俺の顔を見るなり、ギョッとして言う。




「お前、やつれたなぁ……きちんとご飯食べてるのか?」



もともと食事には無頓着な俺だ。


彼女が家にいたとしても、別にご飯を作る訳じゃないし、当たり前だがそれを不満に思わない。



「適当に食べてるよ。それより、何か飲むか?」



「ああ……それにしてもこの部屋、寒いな~~」



「マンションは計画換気ってのが決められていて、24時間ずーっと換気されるらしいからな。俺はもう慣れたが、湿気が篭らなきゃこんなもんさ」



俺はマンションの営業に言われた事を思い出しながら、同じ言葉を友人に言った。




友人は、その夜遅くまで俺と語って、帰っていった。



俺は、彼女の陶磁器の様な美しい足を友人に見て貰いたい衝動に駆られたが、それをなんとか堪えた。



友人がなんと言うかわからないが、その価値は俺だけがわかっていればいい。





何よりも――……友人が騒ぎ立てて、彼女が現れなくなったら困る。




そう、足だけの彼女が。





世間から言えば、彼女の足は、幽霊と呼ばれる部類に入るのだから……。





このマンションの土地にが、以前は整形外科がメインの病院があった事も、俺は知っている。




それでも――他に人がいるハズのない、俺の部屋で。

彼女の足を初めて見た時の、衝撃は。

恐怖ではなく、感動だったと信じている。





――そうして俺は、げっそりとした自分の顔を横目に見ながら……彼女の足を今宵も見に行くのだった……

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