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大漁

とある漁師の町。



そこには、町一番に、腕がいいと言われる漁師がいた。



漁師は、海に出れば必ずその日一番の漁獲量を誇った。



その漁の腕に惚れ込み、弟子にして欲しいと申し出る者は多かった。けれども、屈託のない人物なのに、弟子は一人もつけなかった。



町の者は、その理由を知っていた。


昔はその漁師にも、弟子がいたのである。


しかし、同じ漁師である弟と弟子が一緒に漁に出ている間海に落ち、半年の間に、順に行方不明となっているのである。



口さがない、その漁師に対してコンプレックスを抱いている輩は、漁師が彼等を海に突き落としたんだ、と言い触らした。



そしてそれ以後、その漁師は一人で漁に出る様になったのである。



それでも漁師が根負けして弟子にする若者達もいた。



そうした者は、大概家出少年などで、漁師に挨拶する事もなくフラリとまたいなくなったり、地元に帰っているようだった。



町の者は、どうせ弟子にするならもう少し礼節のある、しっかりした身元の子を……と何度か漁師に話したが、他の漁師の子供等は決して弟子にしようとしなかった。




そんなある日の事。


ある、しっかりと日に焼けた一人の青年がその漁師の下を訪ねた。



角刈りでハキハキした振る舞い、体育会系の部活にでも入っていたのか、しっかりとした礼節をわきまえたその青年も、弟子入りを希望した。



聞けば、帰るべき親元もなく、今は施設から高校に通っているが、この不景気で働き口が見つからないという。


このままでは施設に迷惑が掛かるので、漁師として働きたいが、その前にここで技術を学ばせて欲しい。

そういった内容の話だった。



漁師は断る理由もなく、一先ず青年を弟子にした。




***




……面倒な事になった……




漁師は、目の前で食いかかってくる一人の漁師を眺めながら、ぼんやりとそう思った。



目の前の漁師の名前は、木須。因みに、つい一昨日まで弟子だった青年の名前も、木須。



木須という好青年は、しっかりと親がいるにも係わらず、施設にいると偽って弟子入りをしたのだった。




――まぁ、しっかりとした裏を取らなかった俺も悪いか……



「おいアンタ!!聞いているのか!!息子は何処へ行ったのか本当に知らないのか!!」



木須は、漁師が息子をどうにかしたのかと考えているようだった。



「……それより木須さん、捜索願いとかは出されましたんで?」



「……いや、まだだが……」



「私んトコより先に、警察に行った方がいいんじゃねぇかい?」



「ま……まぁそうなんだが……」



木須が躊躇している理由は、漁師にはよくわかっていた。

高校生や大学生が、1~2日家に帰らない、といって捜索してくれるほど、警察は暇ではないのだ。




「男手一つで育てたもんで、あんまり息子の行きそうな場所がわからなくてな……」



木須は、がっくりと肩を落としていた。



それを聞いた漁師は、気がかわった。



「嫁さんや親族はどーしたんだい?」


「嫁さんは若ぇ頃に逝っちまって、親族なんて今じゃ殆ど連絡取ってないもんで……」



漁師は、少し考えて言った。



「息子さんの居所、心辺りがないわけじゃーないんだが……」



「何っ!?アンタやっぱり何か知ってたのか!!」



「まぁまぁ、落ち着いて。今からちょっと行ってみるかぃ?」



「勿論だ!連絡もよこさないで……あの馬鹿息子が……」



木須は、明らかにホッとした様だった。





***





何が、何が起きたんだ!?



木須は愕然として、自分の両手を見た。



――たった今、この手で、人を……人を殺してしまった……




目の前に倒れている漁師を見て、自分こそが倒れそうだと思った。



息子の場所を知っている、と言って、漁師が案内したのは海だった。



もしや孤島にいるのか、と思いながらそれでも真っ暗な海に目をやっていると、いきなり――そう、いきなり漁師が襲ってきたのだ。



何が起きたのかわからなかった。



木須は途方に暮れた――現状が掴めずに。



……この死体、どうしたらいいのか。



すぐに引き上げて警察に出頭すればいいのか。



したら、息子はどうなるのか。



いや待てよ?――それよりも、この漁師を訪ねて来た事は誰も知らない。



今、真っ暗な海に浮かぶのはこの船だけ……漁師の死体さえ隠して、この船の出入りを町の者に気付かれなければ……!!



悪魔が、耳元で囁いた。




そっと、船内を探してみると、人間に最適な重りを見つけた。



最適、というよりも、人間にくくりつけるために作ったかのような造りだ。

セメントの重りから、まるで手錠の様なものが二つ出ているのだ。



木須は漁師の足首にその手錠をはめ、海に死体を投げ込んだ――……





***





木須はしばらくして、町で一番の漁師となった。




漁師は、行方不明扱いのままである。




木須は漁師を殺してしまったその日、指紋を拭き取る為に、漁師の家にもう一度入った。



そこで、とある地図を見つけたのだが、地図にバツ印がある事に気付き、何かが気になりその地図を持ってきてしまったのだ。



――結果的に、それは宝の地図だという事が後でわかった。



そこに行くと、通常よりも魚が多いのだ。




また木須は、漁師を殺して投げ捨てたポイントが毎日気になり、毎日そこで他の船が来ないか見張っていた。



ある日、気付いたのだ。そのポイントには、魚が集まる。


試しに漁をしてみると、他のどのポイントよりも大漁だった。




木須は、漁師の地図に、漁師が眠る場所をバツ印で書き込んだ。



その日から、漁師は決して自分では食べない魚をとり続けた。



しばらくすると、エサの効果が薄れたのか……魚はどのポイントでも、順に取れにくくなって行った。




ある日木須は、漁師を殺して投げ捨てたポイントの次に、魚が捕れやすいポイントに花束を投げ込んで、呟いた。




――次のエサを、与えなきゃな……

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