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その夫婦は、山の麓に家を構えて山菜取りを稼業としていたが、貧しい暮らしはいつまでも変わらなかった。



嫁は毎年子供を産んだが、子供は冬を越す事なく、春が訪れる前に死んだ。




あばら家の横に作られた墓は、4つ。


そして秋深くなってきた今も、あばら家からは赤ちゃんのまだ元気な泣き声が響いていた。





「おい!おいお前!!」


うだつのあがらない亭主が、普段とは違う、喜びを含んだ声で嫁を呼んだ。


「なんだいあんた、今丁度赤ん坊が寝たところなんだよ」



シーッと、口に指を当てて亭主に注意をする。




「今日は良いものを手に入れたぞ!!」




亭主は、傷を負って弱った子供の狼を嫁に見せた。



嫁は歓喜の声で、「お手柄じゃないかあんた!!今年の冬は干し肉が食べれるんだね!!」と手を叩いた。



「ああ……今年も山菜が不作だったしな、これでなんとか冬を越せるかもしれん」



亭主は笑顔で答えた。



「赤ん坊も……もう五人目だ。なんとか冬を越させてやりたいよな」



「そうね、あんた。今年こそ頑張りましょう」



二人は笑顔で赤ん坊を見つめた。




その日は、子供の狼を早速干物にする準備を整えて二人は寝床についた。




夜には、狼の親が子供を呼んでいるのか、遠吠えがしていた。




***




時は過ぎて……真冬。



亭主が採ってきた山菜も底をつき、狼の干し肉もなくなり、その夫婦はなんとか白湯だけで飢えを凌いでいた。



既に母乳など出るはずもなく、赤ん坊は日に日に弱っていく。



ここ数日は、泣く元気すら無いようだった。



夫婦は、五人目もまた冬を越せないのか……と思いはじめたが、二人はある日、雪が止んだ日に何か食糧になる物はないかと外に出た。



すると、家からさほど遠くない河の近くに、食用ではない(つまり美味しくない)いくつかの草を発見した為、それを両手に一杯取り、雪が降り始める前にあばら家に戻った。



ところが……家を出た時は確かに閉めたはずの引き戸が、開いているのが遠目に見えた。




警戒しながらも慌ててあばら家に戻ると、家の外には人間の足跡ではなく……狼の足跡が続いているのが見えた。



「……あんた!!赤ん坊が中に!!」



二人は急いで中に入ったが、そこにはいるはずの赤ん坊の姿はなかった。



「ちきしょう狼め!!」


亭主が目をぎらつかせて叫ぶと、その声に答えたかのように近くで遠吠えが聞こえた。



一先ず武器になるような物……亭主は包丁を、嫁はモップを手に、外に飛び出す。




すると、30メートル程の距離を置いて、狼が赤ん坊の産衣をくわえてこちらを見ていた。



嫁が悲鳴をあげる。



「私達の赤ん坊を返して!!私達の……私達の肉を返せ!!」



狼は、夫婦に興味を失った様に、山の中へ駆け出した。



「あんた!!私達の大切な最後の食糧が……!!」



嫁は半狂乱になって叫び続けた。



「くそ!!今年こそは我慢するつもりだったが、まさか狼に横取りされるとは…!!」



最初は、飢えで死んだ子供の亡きがらを……夫婦が飢える前に食べた。


それから三年間、冬がきつくなるにつれて、飢えに我慢出来なくなった夫婦は、子供を殺して食の糧とした。



今年こそは我慢しようとしたけれど……こんな事になるのならば、食べておくのだった!!!




その年、春が訪れると。


足を無くした干からびた嫁の遺体と、その嫁に首を捕まれて死んでいる亭主の遺体が発見された。



また同時に、狼に育てられてすくすくと育っている元気な人間の子供の噂が囁かれる様になったという……

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