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救い

私は昔から引込思案で、物事を相手に上手く伝える事ができなかった。



当然、小学生の頃から暗いコの落胤を押され、高校生までずっとイジメを受けていた。



陰湿なイジメは受けていなかったが、やはり私が感じた苦痛や屈辱は相当なもので。



今日、やっとそれから解放されて……親不孝だとは思うけれど、気分が楽になったのは確かだ。





私は、とあるクラスメートにお礼がしたかった。


彼は他のクラスメートが私を無視する中、あっけらかんと、いつでも話かけて来てくれたのだ。



彼は放課後になると、仲間達と屋上にいる。



それを私は知っていたので、授業終了のチャイムがなるのと同時に屋上に向かった。






彼は屋上の柵により掛かって携帯をいじっていたが、近づいて来る私を見て愕然とした表情をした。



「佐倉……なんでここに……お前事故で死んだんじゃ……」




私は彼が怯えない様にゆっくり近づいて、話をしようとした。


(あのね、加藤君……)



出来る限りの笑顔で言葉を繋ぐ。


けれども。




「うわああぁぁぁっっっ!!!それ以上近づくな!!」


彼は蒼白になり、私からもっと離れようとした。




(違うの……)



私は死後でさえも、生前と同じ様に上手く言葉を伝えられないもどかしさを味わうとは思っていなかった。



「はッ!さてはお前、俺を殺しに来たとか?お前をいい金ヅルにしてた俺を怨んで死んだんだろ!!!」


彼が、私に話し掛ける度にお金をせびっていたのは事実だ。



けれども、私は彼を怨むどころか、私という存在をしらしめてくれた彼に感謝していた。



「お前からはもう金をせびれねーからよぉ!!こっちは大変な事になってんだよ!!」




「やべぇよ……俺……今まではお前から貰った金入れてたからなんでも頼めてたのによぉ……まさかあいつが先輩の彼女だったなんて……」



加藤君は一人ぶつぶつ話し出したが、私がその話をもっと聞こうとして近付くと、はっと目が醒めた様にこちらを向いた。



「――んだよっ!!近付くんじゃねぇ!!!」



そうして、柵から離れると、私をギッと睨んだまま右側をぐるりと回り、屋上のドアにたどり着いた。



彼はドアノブを回して空けようとしたが、ドアは動かなかった。



――私が、開かないようにしたのだ。



(……あのね、加藤く……)



「お前のせいかよ!!ここを開けろよ!!」


私のやり方が悪かったのか、彼は鉄製のドアを素手や足でガンガン叩いた。



「開けろ!!!ここを開けろよっっ!!!!」




彼はどんな精神状態なのか……手の皮がめくれ、血が滲んでも、ドアを叩くのをやめなかった。




(お願い、聞いて……)




「うるせぇーーーっっっ!!!俺の前から消えろ!!そしてここから出せーーーっっ!!!」




(………)




私は、彼に怪我をさせたい訳じゃない。


私は彼を救いたかったのだけど……



彼の精神攻撃をまともに受けてしまった私は、もうこの世に留まれそうもなかった。






***






開かなかったドアが、唐突に開いた。



俺は直ぐさま階段に駆け寄ったが、最後に踊り場で屋上を見上げると、そこにいた……血みどろの佐倉の幽霊はいなくなっていた。



……な、なんだよ……驚かしやがって……見間違いか?




そう思った瞬間、頭を誰かに何かで殴られた。




「……加藤ちゃ~~ん、やっぱりここにいたんだぁ~?アイツが屋上のドアが開かないっていうから違うのかと思ったけど……てめぇ、人の女寝とってタダですむと思うなよ!!!!」




鉄パイプが俺を襲った。




俺は、その後血達磨になりながら……佐倉が鍵を掛けた意味を……「掛けてくれた」意味を……知った…………

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