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仕事

私の部屋に来た友人は、「ワォ!」と叫んで私の目を気にするでもなく、辺りをジロジロと見回した。



「バネッサ、貴女一体どんな仕事しているの?」



「前は単なる経理、今は単なる受付嬢よ」



「うっそ!それでこんな部屋に住めるわけないでしょ?秘密を教えなさいよ~」


友人が羨ましいそうに私を見たので、仕方なく私はこう言った。



「こういう部屋に住みたければ、パトロンを見つける事ね」



友人の顔は、羨ましそうな表情だったものがなんとも言えない表情に一変し、結局彼女は話題を変える事を選んだ。



……だから、友人を家に連れて来るのは余り好きではない。



パトロンの話は嘘だが、納得してもらって相手の追求を避けるのにはモッテコイなのだ。




私は今の仕事だけでこの生活を保っている。



前は、経理として裏帳簿の作成を手掛けていた。


因みに、表向きの帳簿、裏帳簿(会長用)、裏帳簿の裏帳簿(社長用)、裏帳簿の裏帳簿の裏帳簿(専務用)まで作っていた為、多忙ではあった。


口止め料を含んだ給料の上に手当が上乗せされ、専務からは別で金が振り込まれた。




そろそろそんな会社も経営不振に陥り(当たり前だ)、引き時かなと考えていると、可愛がっていた同じ経理の後輩から、いい転職先があると聞いて、仲介人を通して紹介されたのが今の仕事だ。




今やっている受付嬢は、以前の仕事より忙しくはないが、給料的には前と変わらないので、非常に気に入っている。


受付嬢と行っても、その仕事は多岐にわたり、受付だけではないのだ。



仕事場はイベント毎に変わるので、まずは会場確保から始まるのだ。



テナント募集をしている都合よい物件をお試しとして一ヶ月単位で借り、そのテナントが利用できる最終日から1日前が、一番重要なイベントDayだ。

最終日は撤去作業。



イベント当日までは部屋のセッティング、チラシのルート配布、次の会場探しと忙しい。

意外だが、チラシのルート配布が一番気を遣う仕事だった。

しっかりとお客様をイベントに呼び込む為、あるルートから取り寄せた個人情報をもとにチラシを紹介していく。



そんな地道な作業が成果となって沢山のお客様が来るため、退場のセッティングは特に念入りに、裏口の確保もしてある。



イベント当日は受付嬢兼、警備員をしている。



次のイベントは、明日だ。早目に友人を帰して明日に備えなければ……




***




「チラシのご提示をお願い致します」


私は笑顔を振り撒いて、お客様に声を掛けた。



このイベントは完全予約制。チラシを忘れたら、即アウトでお客様にはお帰り頂いている。


折角来て頂いたのに勿体ないが、上手く執り成して帰って頂くのも受付嬢の力量だ。



今回のお客様は、サッとチラシを出してきた。私はチラシに目を通して聞いた。

「被験者希望の方ですか?」


お客様はそうだと答えるが、その女性の様子を見ると、客層ターゲットから多少ズレているように見受けられた。


人懐っこい様子。


「……あの、失礼ですが、予約なさった方とは別の方ですか?」と聞いてみる。



するとその女性は驚いた様に目を見開いて、「……ええ、急遽体調不良で行けなくなった友人からこのチラシを頂いて……」と説明しだした。



残念ながら、ターゲット外をお客様にすると色々後が面倒なのだ。




「では、5番のお部屋におはいり下さい」



お喋り好きそうなその女性には、被験者にはなれないが、エステを一度経験して帰って頂く事にした。



外を見ると、でっぷりと太った女性がこちらに歩いて来るのが見えた。




「チラシのご提示をお願い致します」


私は極力朗らかな笑顔で声を掛けた。



女が無言でチラシを差し出す。


私はそれを確認し、「被験者希望の方ですか?」とその女性に質問した。


相手がそうだと答えるたので、私は廊下を指して「3番のお部屋におはいり下さい」と言った。



明らかに、他者との交流関係のなさそうな様子&容姿。

間違いなく、お客様となりえた。



彼女が言われた通りに去ると、今度は痩せぎすの幼い女の子が来た。



「チラシのご提示をお願い致します」


私が言うと、彼女はそっとチラシを出した。


「合唱団ご希望の方ですね、3番のお部屋の前の待合室でお待ち下さい」



私は笑顔で少女を安心させるように言った。





***





端的に言えば、人身売買の会社なのである。



少人数で運営している為、口止め料はいい金額で給料に上乗せされる。



消費者金融等のブラックリストを通してそのリストに載っている人物と交渉し、天涯孤独な人間が知り合いにいたら、チラシ配布を頼むのだ。



危険だとわかっていても、それで借金が軽くなるとわかれば大抵の者が話にのってくる。


話にのれば、仮にターゲットがいなくなっても、自分が一枚噛んでいるため、騒ぐことはないのだ。



それでも中には罪悪感に負けて騒ぐ者もいる。



騒ぐ者には残念だが、騒げない様に会社の商品になって貰うのだ。


私をこの会社に誘った後輩ももしかしたら罪悪感に負けたのかもしれない……気付けば行方不明になってるし。


警察のお偉いさんも、会社の上得意が何名かいるらしく、今のところそれで問題が起きた事はなかった。





さて、こんな時間だ。そろそろお客様……商品を裏口から詰め込む、バンの準備をしなくちゃね。


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