指輪
私の夫は、私が老いてから変わってしまった。
私の大切な指輪を……夫が結婚式の時に下さった、先祖代々受け継がれている大切な婚約指輪を、若く美しい女にくれてやったのである。
私は憤怒した。
よりにもよって、その女が我が屋敷に移り住むと聞いた。
夫も息子も、その女がいる事を後ろめたくともなんとも思っていない。それどころか、歓迎している風でもある。
足しげく我が部屋に通っていた夫は、徐々に来なくなった。
かわりに憎い女が通う様になったが、まるで哀れむ様に私を見るあの目が大嫌いだった。
ある日、私は衝動に任せてテーブルの上に置いてあった燭台で女を殴り、殺した。
……これでやっと、安息の日々がやってくる……
***
女を殺してから、夫は移り変わった私の部屋にやって来なくなった。
更に、夫は何を思ったのか、指輪を次の年若い女にまた渡したのだ。
私は階段の上から突き落とし、その女を殺した。
更にその指輪は、その娘の手に渡った。
私はベランダの内側から女を突き落とし、その女を殺した。
更にその指輪は、宝石商の女に渡った。
私は馬車が来るところで女を突き飛ばし、その女を殺した。
更に何人かの女に私の婚約指輪が渡ったが、私は全ての女を殺してまわった。
そしてやっと……やっと、私の気持ちをわかってくれたのか、指輪は私のもとに戻ってきたのだ。
***
「右手をご覧下さい。昔、その美貌で王の寵愛を独り占めした王妃の墓です。
手前にございますのは、呪われた指輪。
王妃は、この指輪を大層愛し、好んでつけていました。
けれども、王妃は若くして脳を患い、今でいうアルツハイマーの様な状態になってしまいました。
王妃は、息子の嫁に来た女性を、夫の愛人と思い込み、燭台で殴って殺してしまったと言われています。
夫である王は、その前から足を悪くしていて、その事件が起こる直前に亡くなっていましたから、王妃といえど、嘆き悲しんだ息子によって、幽閉されました。
そして、王妃は獄中死しています。
しかし、その後この指輪を手にした女性は、全員が様々な理由で事故死しました。
これだけ立派な王家に伝わる指輪ですから、欲しがって亡くなった方は20人。
その後、国に寄贈されました。
以後、この指輪は呪われた指輪として、一番この指輪に執着していた王妃の墓に飾られております。
では、ご覧になった方から順に、隣の墓に移動して下さい」