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ライト

「おおい!誰か!!助けてくれーーーっっ!!」



私は、あらん限りに声を絞って、助けを求めていた。



隣では、小さな5歳になる娘が膝を抱いて泣くのを堪えていた。



海の中から辿り着くこの洞窟に入り、何時間経過しただろうか。


時計を身につけていない為、時間の感覚が麻痺している。



旅館の女将に注意されたのに、知人から教わったこの場所を侮っていたのだ。



娘を喜ばせようと思って連れて来たこの場所が、結果的に泣かせる事になってしまうとは…




幸いなのは、この洞窟に来る事を旅館の女将さんに話した事だ。

もし、定時迄に戻らなければ、警察や救助隊に話してくれるだろう。



問題は、この小さな狭い空間の空気が、何時までもつのか、だ。



この洞窟の出入り口は、基本的に一箇所。


岩肌を立って歩き、3分位進んだ所にこの洞窟はある。


私は屈んで歩き、娘は真っ直ぐ立って歩いた。入った時には娘の膝位だった海面が、今や娘の頭の上だ。



どうやらこの私達の避難しているスペースの奥に、潜っていけば何処かに辿り着けそうな気配のある空間が広がっているが、それには娘を一人にしなくてはならないし、紹介されたのが来た時の道なのだから、おそらく外に出る迄に3分以上かかる道なのだろうと想像がつく。



入ってきた頃の洞窟の中は、海の中を外の光りが取り込み、その青さが非常に際立って綺麗だったが、今は日が暮れたのか、真っ暗だ。


ただ、目は暗闇に慣れ、岩肌の凹凸位はわかるようになっている。




救助はまだなのかー…そう思った時、海の中が、なんとかくぽうっと明るくなった気がした。



もしかしたら勘違いかもしれない、そう思いながらも祈るような気持ちでじっとその明かりを見つめていると、その海の中で拡散された光は、徐々に輪郭をはっきりとさせていった。



――救助隊の、ライトに違いない。3つのライトが、近づいてくるのがわかった。



私はほっとして、隣で丸くなっている娘の肩を抱き、安心させるように囁いた。



「見ろ、助けが来たぞ」



娘は驚いた顔で私を見ると、直ぐに私の視線を追って海を見た。



娘にもライトが見えたのか、嬉しそうに「パパ、ライトが見える」とはしゃいだ。



「大丈夫ですか~?お怪我はありませんか~?」


海から顔をひょっこりと覗かせ、私達の避難していたスペースに救助隊はやってきた。



暗闇になれていた目は、まるで3つのスポットライトを浴びている様に、眩しくて始めは直視出来なかった。


私と同じ位の歳の男性が声を掛けてくる。


「ええ、大丈夫です。娘と二人、怪我もなく無事です」



私達に声を掛けた男は、まだ若いもう一人の男に目配せして近づいた。



私と娘の傍に二人が来ると、安心させる様に言う。



「では、これから外にでましょうか。これは酸素ボンベです。装着して下さい。」


娘には、若い男が「これをつけるとなんと!海の中でも息が吸えちゃうんだよ~」と説明して興味を引いていた。



もう一つのライトは上がってくる気配を見せず、3人はそれぞれ役割分担をしている様だった。



一旦海に潜らなければならない為、私達は救命胴衣を着けず、酸素ボンベだけ背負って準備を終えた。



娘は補助ロープを腰に巻き、ロープのもう片側を、若い男が腰に巻き付けた。



さて、いよいよ海に潜るのだ。



先程迄の恐怖と焦燥感は何処へやら、冒険に向かう主人公の様に心がウキウキしているのがわかった。



娘と若い男が先に海に入るのを見届けると、同い年位の男が、さぁ、私達も行きましょうと合図を送った。



3つ目のライトはまだ海の中を漂っている。



「あのライトについて行けばいいんですね」



そう救助隊の男に言って、私は海に潜った。





***





「あっ…!!ちょっと……!!」


俺が声を掛ける前に、その男性は海に潜って行った。



嫌な予感が頭を過ぎる。




俺は、救助隊の中で、ちょっと噂話として上がった事のある話を思い出していた。


俺達救助隊は、必ず二人一組で活動している。

奇数での行動はまずないのに、稀に遭難者達がいるはずのない、三人目の救助隊の存在を仄めかす様な発言をした時……その遭難者は、まず助からないという。



なぜなら、我々救助隊は人の命を救うのが仕事なのに…人の命を奪う救助隊の報われない霊がいるという話だ。



個人的には、霊なんて馬鹿らしくて、単なる冷やかしの為の作り話だろうとしか思っていなかった。



それが今――あの男、なんと言った!?



俺は慌てて、救助対象の男性を追い掛けて海に潜った。





***





真っ暗な視界の中、煌々したライトの光だけを頼りに、真っ直ぐに進んだ。



娘達は大分先に進んだのか、姿は見えない。

まぁ、外まで3分の距離だ。

そこまで危険ではないからボンベがあるから大丈夫だろう。



私はスピードを上げて、ライトを頭に着けた救助隊に近づいた。


陸に上がったら、彼ら3人は私達の命の恩人となるのだ。


よく御礼を言って、顔を覚えなければ。




……それにしても……この前にいる救助隊は、随分とウェアがボロボロな物を着ているな……



私は、同い年位の救助隊の男性のウェアも確認する為に後ろを振り返ったが――そこには、水の闇が広がるばかりで誰もいなかった。



――おかしいな、直ぐに着いて来るものだと……



私が後ろを振り返り、足を止めた事に気付いたのか、ライトを頭につけた救助隊が近づいて来た。



私は、もう一人の男性が追い掛けて来ない、とジェスチャーで伝えようとして……





男の顔が視界に入った瞬間に、余りの衝撃で――酸素ボンベを口から外してしまった。





苦しい、苦しい苦しい―――!!!!!





海水が、容赦なく口から鼻から入ってくる。




くるしい、、、くる…い、、、




喉を掻きむしりながら、私は目の前の物を、直視し続けた。




く、、る、、、、、






目の前にある、髑髏の顔を……

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