図書委員
?「ああ、もうこんな時間になっちゃったね!今日はここまでにして、急いでこの本戻したらさっさと帰ろう!」
眼鏡をかけた女子高生がそう言うと、他の女子高生も、それまで書いていたポスターを片付け始めた。
?「あの、工藤センパイ、この新しく仕入れた本も並べるんですか?」
髪の毛を二つに分けた女子高生が、眼鏡をかけた女子高生に問い掛ける。
工藤「あ、それはまだ未処理だから…倉庫にいれてくるね、かして。えっと…」
?「鈴木です」
工藤「ごめんね鈴木さん、まだ名前覚えてなくて」
鈴木「あはは、まだ4月ですもん、しょうがないですよ~」
工藤「じゃあそこ、皆で片付けておいてね」
皆「ハーイ」
工藤が倉庫に向かうと、その場に残っていた4人は緊張を解いた。
この高校では、学年によって胸のリボン&ネクタイのカラーが違う。
工藤は3年で、藍色だ。来年になれば、1年が同じ色を身につける様になる。
他の4人は、全員、深紅色だった。現在の一年生のカラーである。
因みに今の二年生は、深緑となる。
まだ、高校生活が始まったばかりの深紅色を纏った高校生達は、先輩の前で、多少緊張しながら図書委員の仕事をしていた。
***
?「鈴木さん、これからよろしくね!私、1組の椎名愛子。アイって呼んで~♪」
ショートヘアの女子高生が鈴木に声を掛けた。
鈴木「うん、よろしく!私は3組の鈴木真夏」
愛子と真夏が握手を交わし、そこにいた他の二人にも自己紹介を促した。
?「私は6組の橘楓です」
ニコニコと愛嬌のある笑顔を浮かべて、背の低い女子高生が言った。
?「あの…近藤…紀代美です…」
おどおどしながら、首にお洒落なスカーフを巻いた女子高生が言った。
愛子「紀代美ちゃん、スカーフなんて、変わってるね~?」
紀代美「う…うん、首に凄い痣があるから…」
愛子「あ、話しにくい話だったかな…ごめんね」
紀代美「ううん、大丈夫だよ」
楓「皆はなんで図書委員になったの~?」
真夏「本が好きだから」
愛子「私も」
工藤「お待たせ~!さ、早く帰ろう!」
皆「ハーイ」
***
愛子「あの、なんで3年生は図書委員工藤センパイだけなんですか?」
ごくもっともな質問が愛子の口から出た。
図書委員は、全てのクラスで一人ずつ選出されており、全員で6名だ。
それにも関わらず、4月始めの委員会では、3年生は工藤のみ、2年生も二人しかいなかった。
工藤「…私が黙っていても、そのうちばれちゃうから先に話すね。」
工藤のただならぬ気配に、全員がその話に耳を傾けた。
工藤「…この高校の図書室ね…出るんだ」
誰も、何がですか、とは聞かなかった。
工藤「私みたいに全く!霊感ない人は大丈夫なんだけど…一度でも見ちゃうとやっぱり、皆辞めちゃってね」
愛子「だからセンパイ、早く帰ろうって言ったんですか?」
工藤「うん、そう。…むしろ私は、その霊に会いたいんだけど、ね」
工藤は悲しそうな顔をして呟いた。
楓「会いたい…って…お知り合いですか?」
工藤「うん、そう。近所で凄くお世話になった、一つ年上のお姉ちゃん。…酷いイジメにあって、図書室で首吊ったって…私がここの高校に入ってすぐの事なんだけど。私、そのお姉ちゃんのお蔭で本が好きになったの」
4人は、工藤になんと声をかけていいのかわからず、沈黙を守った。
気付けばもう目の前には校門があった。
工藤「さ!ごめんね、変な話して…皆、辞めないでくれると嬉しいな♪じゃあ、気をつけて帰ってね、私はここから自転車だから」
4人は無言で工藤の後ろ姿を見送った。
***
次の日の放課後。
図書室に入ると、昨日怖い話?をしたにも関わらず、愛子と楓と真夏がせっせと図書委員の仕事をしており、工藤は嬉しくなった。
工藤「お!もうポスター仕上がったんだね~!これで新作貸出率上がるかな♪」
真夏「私達、頑張りましたよ~!」
工藤「うんうん、今日も来てくれて…ほんと、嬉しいよ…」
楓「一人まだ来てませんがねっ」
工藤「ん?」
愛子「そういや、紀代美って何クラスだっけ?自己紹介した時、クラス言ってた?」
楓「ん~…記憶にないなぁ」
真夏「迎えに行くのもクラスわからなきゃ流石にね~!」
工藤「紀代美さんって誰だっけ?」
楓「うちらと同じ学年の図書委員ですよ~確かに大人しいから忘れてしまうかもですが…昨日最後まで一緒にいたじゃないですか~!」
工藤「…そう…か、そうだっけね」
愛子「紀代美はスカーフしてるって言えば直ぐにわかるよ」
3人の一年生達は、きゃあきゃあと楽しそうに作業を進めている。
工藤は、悟った。
きっと、昨日の時点で、彼女達3人は自殺したお姉ちゃん…近藤紀代美を、既に見ていたのだ。
スカーフは、首に残る痣を隠す為のもの…
私にはやっぱり、見えないんだね…
彼女は3人に悟られないように、そっと、ため息をついた。