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ルームミラー

その男二人組は、蟻地獄や蜘蛛の巣の様に、獲物が捕まるのを辛抱強く待っていた。



二人は麓の小さな銀行で、強盗をしたばかりだった。



防犯カメラに撮られたに違いない盗難車を乗り捨て、代わりになる車を山道のトイレ休憩所で待ち構えているのだ。



男二人は実は麓の街に住んでいた為、夜中になると、この山道が街に住む者のライフラインというよりも、走り屋に愛用される事を知っていた。



この山道はある走り屋が主人公の漫画で加速度的に有名になったのである。



走り屋=暴走族ではなく、だいたいが18~25くらいのスピード狂であり、拳銃を持った二人組に逆らうとは思わなかった。


仲間がいると厄介なので、単独で走りにくる奴を狙う。



銀行強盗も、この計画の為に、晴天にしか決行しないと決めていた。



走り屋の車はその音も含めて多少目立つが、麓の街の人間は感覚が麻痺していて、むしろ夜中の日常には溶け込んでいる。





二人組がじっと車の中で辛抱強く待っていると、しばらくして━━獲物が、やって来た。




☆☆☆




その車は、マフラーから低音を響かせながら、走り屋にしてはやけに丁寧な走りで小さな駐車場に入ってきた。



その後、運転席からは大学生位のスーツを着た男が、助手席からは真っ黒な格好をした女の子が降りて、それぞれトイレに入る。



ハッキリ言って、走り屋には見えなかったが、女がいる方が楽な仕事に思えた。




男達は目配せをしあい、ターゲットをその車に定める。



盗難車から音をたてない様に出て、そっと走り屋の車に近づいた。



その車は、もともと2ドアの4シートを改造して2シート(後ろが乗れないように、斜めに鉄パイプがはしっている仕様)になっていた。



男達は覆面を被り、直ぐにトイレから出てきた男に拳銃を突き付けて言った。



「車のキーを寄越せ!!」



スーツの男は一瞬呆気にとられた様な顔をしたが、直ぐにポケットから車のキーを出し、目の前でぶら下げて返事をした。



「……その車は借り物なんだが、その車じゃなきゃダメか?」



「うるせぇ!!聞こえてたなら、さっさとキーを寄越しやがれ!!」



二人組の一人が、車のキーをスーツの男から奪い、エンジンをかけた。




そこに、女の子がトイレから戻って来た。



意外にも、状況を一瞬で察したのか、暗い表情で言った。



「その車だけは、やめておいた方がいいですよ」



男二人組は、泣き叫んだり、怖がったりせずに淡々と話す女の子が逆に気味悪く感じた。



二人に対して、「……離れてろ」そう言うと、二人組は走り屋の車に乗り込み、急発進してその場を後にした。




☆☆☆




「……上手くいったな」


二人組は、覆面を外して山道を麓街へと走らせた。



後は、この車を証拠隠滅の為に、処分すればいい。処分ルートも、既に手を打っておいた。




後ろからついて来る車はいない。



こんなに、上手くいくとは思わなかった。


盗難車に何かしらの痕跡が残っていたら痛いが、二人とも、そこまで大きなミスをしたつもりはなかった。



盗難車は、麓街の二人共通の知り合いの車であり、二人は以前、その車に乗せて貰った事があるからだ。



仮に指紋が付いていたとしても、逆に不思議はない。




男達は、大笑いをしながら車を走らせていた。



後ろの席には、札束の詰め込まれた鞄がおいてある。




運転席にいた男は、ルームミラーで鞄を確認しようとした。



「……ひっ……」



運転席の男は、息を呑んで、急ブレーキを掛けた。



助手席にいた男が驚いて、運転席の男に怒鳴る。



「あ……っぶねぇじゃねぇか!!何してんだよ!!」



運転席の男は真っ青な顔をして、「後ろ……後ろの席に……」と、ハンドルを両手で握り締めて顔をその両腕に埋め、ガタガタと震えていた。



「はぁ?鞄は無事だよ!!運転代わるから、席どけろ!!」



助手席の男は後ろの席にある鞄をバンバンと叩き、運転席から男を引きずり出して運転を代わった。



ルームミラーでちらりと後ろを見ると、そこには鞄があるのが確認できた。



……よしよし……



助手席に代わった男に無理矢理後ろを向かせ、「ホラ、鞄あんだろ?脅かすんじゃねーよ」と言うと、発車させた。




助手席に代わった男は、後ろ席を無理矢理でも確認させられた後、だいぶ落ち着いた様だった。



「さっきは……スマン……」


「いや、別にいいけどさ。どうしたんだよ」



助手席に代わった男はゆっくりと話した。



「ルームミラーにさ、後ろの車のライトが写り込んだ気がしたからさ……何気なくルームミラーを見たんだ……そしたら」




そこには、頭から真っ赤な血をダラダラと流した髪の長い女が、いたという。




後ろ席の、ちょうど真ん中に。



鉄パイプが斜めにある為、後ろ席は使えない。そんな女がいる訳無いのだが、確かに助手席に代わった男は見たという。




その話しを聞きながら、運転席に代わった男は、ルームミラーに後続する車のライトが写り込んだ気がして……


















ルームミラーを、見てしまった。











次の日のテレビのニュース。

銀行強盗をした二人組の男が、山道下に落ちた車の中から遺体で発見されたという報道が、5分位の時間を使って流された。無事にお金は銀行に返却されたらしい。




道隆は、忍に向かって言った。

「除霊前だったから、やっぱりこうなりましたね」



忍は、その報道を見ながら「だからやめとけって忠告したのに……」と、呟いた。

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