マットレス
う~~ん、買った商品が悪かったのか。それとも、たまたまハズレクジを引いてしまったのか。
首を傾げながら、私は最新のマットレスを検証した。
もともと腰痛持ちの私は、最近ますます酷くなる腰痛に悩まされていた。20代後半で腰痛に悩まされるなんて悲しいが。
そんなおり、たまたま流れていたテレビの通販番組。腰痛も軽減、寝つきもバッチリという誘惑に負けて、初めて商品を買ってしまったのだ……
物は、マットレス。
タイミングの悪い事に、商品の不具合に気付いた今日、クーリング・オフの期限が終了した。
このマットレスの特徴は、体の線(重み)にあわせて、変形するというものだ。コイルタイプではなく、低反発のマットレスといえばわかりやすいだろうか?
私の部屋のベッドは、寝相の悪さを心配した親が購入した、ダブルサイズのベッドだ。
彼氏とも余裕で二人並んで寝られるので、重宝している。
また、どんなに仕事が忙しくても、ゆったりとしたベッドで眠りに入れる幸せは、シングルサイズでは味わう事ができない。
当然、マットレスもダブルサイズで注文した。
マットレスを購入して3日。宣伝文句通り、その柔らかで包み込むような質感と、多少の適度な固さは最高だった。
唯一の難点といえば、低反発素材に有りがちな《湿気を含みやすい》という事だったが、抗菌仕上げと特殊な通気孔?が工夫してあるらしく、冬という季節柄もあって、全く気にならなかった。
そのマットレスが微妙に変?な事に気付いたのは、私ではなく彼氏だった。
親元で暮らしている彼氏は、仕事が早く上がれた日に、私の家に寄る事がある。
狭い1DKの我が城。当然、ほとんどのスペースをベッドが占有している。
「あ、さっきまで寝てただろ」
彼氏は私の部屋に置きっぱなしのマイジャージに着替えてベッドに潜り、そう言った。
「え?今日は帰ってきてからずっと座ってスマホゲームやってたよ~」
私がそう言うと、
「へえ?そっか、俺の勘違いかぁ…」
という返事をしながら、納得しかねる表情をした。
「し、知り合いとかさっきまでこのベッドにいた、とか?」
更に重ねて彼氏が変な事を聞いてくる。
「ううん。さっき私帰ってきたばっかりだよ~。今度友達来る事になってるけど、まだここに来た友達いないし?」
「そ…か、そうだよなぁ!」
「何、なんでそう思ったの~?」
どんな些細な事でも、彼氏が変な誤解をする前に聞いてみた。
今日、布団は干してないから、布団の中が暖かくてそう思った訳ではないと思う。
「う…ん。形が…」
「カタチ?」
「これ、低反発じゃん?寝転んだ時、その形に慣れてくるけど、今入った時、既に凸凹してた気がしたんだ」
その会話をした次の日から、マットレスの凹凸を意識して見てみた。
すると、確かに最初から凸凹しているのがわかった。
ダブルサイズのベッドだが、私は普段、私用の枕がある方に寝るので、気付かなかったのだ。
たまたま今回は、彼氏が、彼氏用の枕の方に寝転んで、マットレスが始めから沈んでいる事に気付いた。
おいおい、と思う。
新品のマットレスを購入したのに、始めから不良品なんてやめて貰いたい。
その後、何日か様子をみたが、マットレスは同じ箇所が、同じ具合に沈んでいた。
ただし、沈んでいる癖がついていても、低反発の特徴なのか、更にその上に寝転べば、自分の体にフィットする事もわかった。
問題ないといえば、問題ない。
結論から言えば、単にちょっと沈み癖のついたマットレスがきたというだけで、替えて貰ってもいいのだが、もしこれが製造工程で着くものだとしたら、商品を替えて貰っても変わりないし、第一面倒だ。
テレビで言っていた通り、腰痛は楽になっているし、物としては気に入っている。
私は、知り合いの女の子が家に来るまでそう思ってた。
マットレスの沈みは、不良のせいだと。
知り合いの女の子…ちょっと霊感の強いコが、家に遊びに来て初めて口にした言葉は忘れられない。
「ずっとベッドに寝転んでる方……こちら見ないけど……ご挨拶した方がいいかな?」