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目立ちたがり屋

大地(だいち)典男(のりお)(しょう)恒雄(つねお)の4人は、目の前に広げた写真に見入っていた。



場所は典男の部屋の中。


全員、同じ間取りの同じ団地に住んでいた為、誰の部屋にいたとしても、対した違いはなかった。



典男は得意げに写真を一枚一枚、めくっていった。


大地と翔と恒雄は、途中「おお」「すげー」と声を上げながらその写真を観察している。



典男の父親は刑事で、ちょうど近所の子供が惨殺された事件を追っていた。


目の前にあるのは、その惨殺された現場の写真である。



典男は、機密保持の理由から、絶対に他の奴らに話すなよ、と前置きした上で3人にそれを見せた。



3人としては、どうやってその写真を入手したのかとか、捜査状況はどうなっているのかとか、色々聞き出したかったが、典男曰く「デジタルに弱い父親から勝手に持ち出したのであって、写真の事も含めて何も聞き出せない」と言われると、諦めるしかなかった。



それでもその3人は、熱心にショッキングな写真を何度も見ていた。



写真は全部で40枚程ある。


遺体を全体で写したもの、致命傷の拡大、顔のアップ、その他凶器や周りの少年の物と思われる荷物等様々だ。



写真を見るに、少年の致命傷は首に走る傷か、胸に見える傷と思われた。



また、凶器の包丁は足元の芝生に転がっている。

何処の家にでもありそうな代物だ。



少年の持ち物は、現場の写真上でもハンドタオルや小銭いれ、文房具が散らばっていた。



「なぁ、この写真から犯人絞りだせないかな~?」

推理小説を好んで読む翔が興奮しながら言った。


「こんなんでわかるんなら、とっくに警察が捕まえてるよ」


冷静に大地が答える。


「そうだよな~…けど典男、初めてだよな、こんな写真見せてくれるのは…話ならいくらでも聞いたけどさ」


恒雄が聞き、典男が得意げに答える。


「いつも親父の話だけだろ?あんなんじゃ皆、つまらないかと思ってさ…」


勿論、毎回3人とも興味津々で典男の話に食いついていた為、本人も本当に3人がつまらないと感じているわけがない、と知っての発言だ。



典男の話の基本は、父親の仕事の話だった。



ゲームの得意な翔。

運動の得意な大地。

勉強の得意な恒雄。


その3人に比べると、典男は平凡そのものだった。特に抜きん出るものが一つもなく、その事実は典男を苦しめていた。



どちらかというと目立ちたがり屋の典男は、話題の中心にいるのが好きだった。

逆に他の3人には、全くそういった意識がなかった。

それは良くも悪くも、典男の行いを助長させていった。



典男の家を夕方においとました3人は、そのまま散り散りになる予定だったが、翔の行動がそれに歯止めをかけた。



「あれ?翔、どこ行くんだ?」


翔が家とは別の方向に歩いていくのを見て、大地が話し掛ける。

全員、同じ団地に住んでいる為、お互いの家の場所は当然知っていた。



「…へへっ!現場に行ってみたくなってさ~!」


翔がそう言うと、恒雄が引き止めた。


「典男が怒られるかもしれないだろ、やめとけよ」


「別に典男の事は話さないよ、単なる野次馬さ」


翔が行く気満々なのを見て、2人もついて行くことにした。


幸い、現場まで歩いても10分位だった。


「まだ警察いるかな~」


呑気に話ながら現場に着くと、既に警察が引き上がった後だったらしい、ロープすらも引かれていなかった。



現場に着いて、警察が写真を撮ったと思える場所を眺める。


翔は、よくドラマで見かけるシーンを想像して何か違和感を感じたが、それが何なのかわからなかった。



3人がしばらく現場でうろちょろしていると、一人のお年寄り(といっても60代の男性)が近寄って来て、3人を窘めた。



「これこれ君達、あまりここにいないほうがいいよ」


「それってここで事件が起きたからですか~?」


「ああ…犯人も捕まっていないし、危険だからね。後、遺族の方からすると、良くは思わないだろう?」


それまで面白半分で来ていた3人はハッとして、直ぐに反省した。


「そうですよね、ごめんなさい…」

「あの、貴方がご遺族の方ですか?」


素直な3人の姿に笑顔を見せて、お年寄りは答えた。

「いいや、私はこの近所に住んでいるんだよ…事件の第一発見者でもあるんだが」


「え!!!??」


「だから、ここがどうしても気になってしまうんだ」


お年寄りは顔を曇らせて眉間にシワを寄せた。



あの写真を見ただけでもショックだったのに、本当に目にしてしまったら、それはどれだけのものか━━3人には想像つかなかった。




「あの、僕は将来探偵か警察になりたいんです!」


翔はいきなりお年寄りに話し出した。


「警察には、どんな事を聞かれたんですか?」


お年寄りは小さな探偵に微笑みながら、丁寧に返事をした。


「ん―…やっぱり、発見した時刻とか現場の状況とかだよ。発見するまで何処にいたのか、何故ここを通ったのか、発見してからどうしたのか、事細かくね」


「ご遺体には…その…」


「触ったよ。私は、救急車でなく警察を呼んだんだ」


「凶器には…」


「現場にはなかったよ」


「…え?」


「警察も、凶器は探している最中だよ」



3人は、頭を殴られた様な衝撃を受けた。



翔はその時、現場を見た時に感じた違和感がなんだったのかわかった。




典男が見せてくれたあの写真には、鑑識が写真を撮る時に付ける、目印のような英字の札がなかったのだ。

ドラマでよくあるシーン。何度も見かけるシーン……





典男は、誰にも言うなと言ってあの写真を見せた。3人は、勿論他人にそんな話をするつもりはなかった。



凶器が写った写真。



どうやって手に入れた?



目立ちたがり屋の典男。



いつも、話題を独占したがる典男。



仮に、凶器は見つかっていないとテレビや週刊誌が報じたとしても、単に警察が情報を出していないだけだと、3人は思っただろう。


そして、警察と同じ情報を持っている事に対して優越感を覚えただろう。



━━まさか、今ここで第一発見者の人と話す事がなければ。



一生。




目立ちたがり屋の典男。




いつ。





凶器の写真を、撮ったの?

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