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ループ

私には、年子の姉がいる。


正確には、姉は『母の亡くなった姉の子供』なので従姉妹に当たるが、伯母は私達が赤ちゃんの頃に亡くなったので、感覚としてはやはり姉妹だ。



私から見ても、母は分け隔てなく私達を育てたので、高校にあがるまでは全く知らずに育った。



姉は私の自慢で、尊敬出来る人物だった。



基本的にサバサバしていて美人でカッコイイ姉は、小学生の頃は地元のバスケ選手で有名だったし、中学生では私の苦手なマラソン大会で常に1位だったし、高校のクラスの出し物ではベルサイユのばらのオスカル役だった。



大学に入ると、私は苦手だが、いわゆる格好よくて資産家と噂の男性を射止め、そのまま都内のマンションを買い、可愛い一人娘も産まれて幸せの絶頂期を迎えていた。




‡‡‡‡‡‡




「お姉ちゃん……本当にいいの?」



「何遠慮してるのよ、早く行ってらっしゃい」



今日は、私達の結婚記念日。


姉がたまには夫婦水入らずで食事でもしてきなさい、というので、今一人娘の一花(いちか)を預けに来たところだ。


「いつも愛美(まなみ)をあんたにお願いしてるんだもの、たまには私も恩を返さないと」


姉が冗談めかして言う。


「あら、一花の着てる上着、凄くいいじゃない~!うちの愛美にも着せてあげたいくらい!!」


姉は私の腕から一花を受け取ろうとしたが、寝ているのでそのまま子供部屋に私が寝かせに行くことにした。



姉と夫の談笑を後ろに聞きながら、何度も入った事のある子供部屋にお邪魔した。



かなり大きめのベビーベッドには、先に愛美がすやすやと寝息をたてている。




ふふ……可愛い……



愛美の隣に一花を寝かせ、双子の様にそっくりな二人を眺めながら幸せを噛み締めた。



あ!そういえば姉は一花の上着を欲しそうにしてたなあ……



私はそっと一花の上着を外すと、愛美に着せてみた。


その上着は、勿論愛美にもよく似合っている。



普段から姉にはお世話になってるし、喜んでくれればいいな。



ちょっとした悪戯心がなかったとは言わないが、姉だって直ぐに気付くだろう。




一花と愛美の頬っぺたに軽くキスをし、玄関に戻った。




‡‡‡‡‡‡




私は、年子の妹と旦那を、渦巻く嫉妬を抑えながら見送った。



正確には、妹は『私の死んだ母の妹の子供』なので従姉妹に当たるが、母は私達が赤ちゃんの頃に亡くなったので、感覚としてはやはり姉妹だ。



私から見ても、義母は分け隔てなく私達を育てたので、高校にあがるまでは全く知らずに育った。



私は妹を表向き可愛がっていたが、あの無垢な性格が大嫌いだった。



基本的におっとりしていて少女のように可愛らしい妹は、小学生の頃は地元で目立たない癖にモテるので有名だったし、中学生では私の苦手な勉強も出来て、全国で常にトップクラスだったし、高校のクラスの出し物では可愛らしい容姿を活かして主役をこなした。



大学に入ると、妹にちょっかいをかけていた、容姿も家柄もいい男を私のものにしたが、この男が最悪だった。


見た目や人の目ばかり気にするマザコン男で、親の金で都内のマンションを買った。


その上、マンションに越して早々、エレベーターの故障が原因で階段を使うはめになり、慎ましくてもしっかり一軒家をかまえた妹の方が成功を掴んだと思う。

娘が産まれたのが奇跡と言うくらい、旦那は毎夜遊び歩き、殆ど家には帰って来ない。

借金もあるらしく、先日初めて家に取り立てに来られた時には離婚を考えた。



愛美だけが私の生き甲斐だが、妹のまるで幸せな家庭の見本を見せ付けられる度、一花に当たりたくなる。




‡‡‡‡‡‡




私は、一人寂しく夕飯を食べ、ぼーっとテレビを見て時間を過ごした。



今頃、妹は愛する人と予約したレストランで、特別な時間を過ごしているのだ。



……イライラしてきたところに、一人の泣き声がしてきた。



……どっちよ!?




真っ暗な子供部屋に入り、ぎゃあぎゃあ泣いている方の子供が一花だったので、腕をむんずと掴んで小脇に抱えた。




普段、そんな抱かれ方はしないのであろう。

一花はきゃっきゃと喜んだ。




私はそのまま、一花をベランダの外に連れ出した。



……高層マンションではさ、掴まり立ちを覚えた乳児が、母親が目を離した隙に転落してしまう事故が結構あるんだよ、ね。




私はわざと、ベランダにある荷物をそっと一花でも登れるように並べてみた。



何もしらない一花は、目を輝かせてそれによじ登り始める。



そう、いい子ね。さあ、冒険していなさい……






私はベランダから窓をあけたままそっと戻り、愛美の様子を見に行った。



可愛い愛美。



起こしてしまうかもしれないが、もっと顔をよく見たくて電気を付けた。



旦那がいなくても、私が立派に育ててあげるからね。




そこで私は、何か違和感を覚えた。



愛美……肌着をいつ替えたっけ?あれ?けど、この肌着は持ってない……見覚えはあるけど。




ある事に気付き、ハッとする。





━━ベランダにいるのが、愛美だ!!





私は直ぐさまベランダに走った。



妹は、私のお世辞を本気にして、愛美に上着をかけさせたんだ。



何の悪意もない、善意で。




それを私は━━!!!




「きゃあああ!!愛美ぃぃ!!!」





目に飛び込んで来たのは、ベランダの向こうに落ちかけた、愛娘の姿だった。




私は咄嗟に手をめいいっぱい伸ばし━━












愛美を抱えたまま、ベランダの向こうに、落ちた。




‡‡‡‡‡‡




「まさか……、まさか、お姉ちゃんが……」




私と夫の結婚記念日は、姉の亡くなった日となった。




涙が止まらない。




優しくて、カッコイイお姉ちゃん……




どうやら、ベランダから落ちそうになった愛美を助けようとし、足を滑らせて下に落下したらしい。



愛美は奇跡的に、無傷だった。




驚く事に、姉の旦那様は、愛美の養育権を放棄した。



私は夫と話し合い、二人で愛美を引き取る事にした。



亡き姉の愛娘。




かつて私の母は姉を引き取り、私達を姉妹の様に育てた。



私も、愛美を引き取って、一花と姉妹の様に育てよう……分け隔てなく。





母と亡くなった伯母。

私と姉。

一花と愛美。




何か、運命的なモノを感じた……


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