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特殊能力

私は、耳栓かiPodが手放せない。


そうじゃないと、『雑念』が入ってくるのだ。他人の想いが……


超能力。そういえば聞こえがいいかもしれないけれど。


あっても何の役にも立たない。むしろ、人から孤立する一方だ。



私の母は、やっぱり能力者だったらしい。


らしい、というのは、私を産むと同時に母は亡くなったからだ。


父は、母を亡くした事で私を恨み、直ぐに母方の祖父母に私を預けた。



祖父母に言わせると、母は遠い未来の予知をする事が出来たらしい。


予知能力を持って、随分苦しんだと聞いている……



私を産む時、母はしきりに私の能力は『他人の心を読める能力にしてくれ』と頼んだらしい。


『予知では辛すぎる。けれどもそのままではこの子は危険。せめて……』



誰に祈っていたのか、祖父母には謎。



私が育つにつれて、母の遺言が叶った事を祖父母は知った。




私は母を恨んだ。



こんな能力、欲しくなかった。



何故、母は私にこんな能力を授けたのか……



思春期に入り、私は好意を寄せていたクラスメートの男の子が私の数少ない友人を好きだという事に傷つき。



皆に尊敬され、信頼されている先生が実は女生徒の事をいやらしい目で見ている事を知り。



クラスの人気者が、影で率先してイジメを行っている事に気付き。



頭がよく、ゆくゆくは東大に、と渇望されている生徒が万引きの常習犯だとわかり。





何も知らなければ、笑顔で接する事が出来たのに……この能力のせいで、人の本音がわかってしまうせいで、私は必然的に人と接する事を嫌い、一人を好む性格となってしまった。




‡‡‡‡‡‡




私はいつも通り、iPodを耳にさして電車に乗っていた。

ガラガラな車内。


私は授業をサボって、山手線でぐるぐる周りながら、携帯で遊んでいた。



そういえば、母は死の間際に私を抱きながら『電車は使わせないで』としきりに祖父母に頼んでいたらしい。




祖父母の住まいは、東京。当然、電車による交通の便はよく、車の免許も持っていなかった。



祖父母がその理由を聞く前に母は亡くなったので、流石に慣れ親しんだ住まいから引っ越す気にもなれず、そのまま私も電車をよく利用する東京で育った。




田舎で育っていれば、東京の様に雑念が多くなくて、私は助かったかもしれない。




iPodを耳にさしていても、より強い念はたまに入ってくる事がある。




『誰…もいい……て……やる……』


今も、煩い雑念が入ってきた。




雑念は、徐々に近づいてきた。



私はそのまま、雑念が通り過ぎるのを待った。





が。






乗客の悲鳴とともに、私の視界が、何故か真っ赤に染まった。







何が起こったのかわからなかった。







通り過ぎた男の方を見ると、同じく真っ赤に染まった包丁を持っている。




私の耳から、iPodのイヤホンがぽろりと取れた。




男が向かう先から伝わってくるのは、とてつもない恐怖、恐怖、恐怖。



男から伝わってくるのは、『誰でもいい……殺して……やる……』という、強い念。




私は、切られた首に手を持っていった。


天井と座席と床を真っ赤に染めているのは、私の首から吹き出した血だろうか。



痛みは、ない。




人の脳は、助からない致命傷を負うと、痛みを感じない様に出来ているという。




男が歩いていった方向から、つんざく様な様々な悲鳴が聞こえてきた。



ああ……



お母さん、貴女は……




この光景を、見てしまったんだね……




……確かに……iPodを聞いていなければ……人の心が読める私は……一目散に逃げ……ただろう……




……私が……この……特殊……能……力を……厭わな……け……れ……ば……


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