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次はお前だ

「交替しま~す」


21時。



夜勤の俺は、中番(何故か俺の会社では昼勤務をナカバンと呼ぶ)の社員と交替し、10台のモニターの前を陣取った。



モニター数の割に、社員1人で対応という環境。

経費削減の流れは俺の会社にも大分影響を与えていた。



とは言っても、大した問題は起きた事がない。


ここは建物が大分くたびれているとはいえ、一応屈指のホテル。


泊まり客も常識的な人が多く、俺が警備にあたっているうちで一番大きな問題だった事は、夫婦喧嘩の末に素っ裸同然でオートロックの客室を追い出された70歳の男性を保護した位か。



聞いた話でも、ヤクザ同士が鉢合わせてホテル玄関前で一触即発の騒ぎがあった事があったらしいが、せいぜいその程度だ。



基本的に監視されない開放感の中、勤務中に本を読んだり、ゲームをしたりする者も多いが、自他共に認める真面目人間の俺は常に巡回時間以外はしっかりとモニターを眺めている。



実は俺はモニターを見るのが意外と好きだった。



見られていないと思って、美人が鼻をほじったり、紳士がおおあくびをかいたりするのを見て、がっかりするのもある意味楽しい。



夜勤の場合は時間が時間なだけに、出入りする人も少ない為、正に玄関から入ってきて入室まで、その殆どを見届ける事が出来るのだ。




‡‡‡‡‡‡




今日も、10台のモニターをゆったりと眺めていた。


深夜12時。


一台のカメラに動きがあった。



━━いつの間に?



場所は、エレベーターの中だった。



玄関から入ったのか?それとも部屋から出たのか?



中の様子は明かに変だった。


一人の男が、女性に馬乗りになっている……


振り上げた手にしている物は何だ?





……どう見ても、ナイフだった━━!!!




慌てた俺は、至急エレベーターと交信した。



「ナイフを下ろしなさい!!女性に危害を加えるな!!!!」



完全に慌てていた自分の声が裏返った事がよくわかった。


しかしそんな声でも、エレベーター内にいた男には効いたのか、男の行動が一瞬ピタリと止まった。




俺がホッとした時だった。



男は、今度は躊躇なくナイフを振り下ろす!!



愕然とする俺の目の前で、画面が女性の血で真っ赤に染まっていった……





俺は、モニターを介してとはいえ、目の前で起きた事が信じられなかった。




何かの……



そう、何かの間違いじゃないか?



例えばドッキリとか?


会社の実演研修とか?



画面に目を奪われながらも、頭の中はぐるぐると様々な考えが巡った。


しかし、金縛りにあったのかの様に動く事は出来なかった。



画面を真っ赤に染めた男は、ゆっくりと……モニターの方を向き……更に近づいてきた。


男はごく普通の顔をしていた。ただし、普通なのはその容姿だけで、落ち窪んだ目は生気がなく、口から涎を垂らし、表情は明かに正常のそれとはかけ離れていた。




男の口が動く。





俺は、エレベーターと繋がったままの受話器から、男がなんと言ったのかを聞いた。






次 は お 前 だ … …




‡‡‡‡‡‡




それから一ヶ月が過ぎた。



男は直ぐに逮捕され、精神病棟に入れられている。




俺は、警備会社を半ば強制的に辞めさせられ、バイトを転々として食いつないでいた。



男が捕まっている間は、俺があの男に殺される事はない。



警察にも言えなかった(言っても何の反応もなかったという方が正しい)、あの男の言葉はなんだったのだろう……?




『次はお前だ』




俺はいつか、あの男に殺されるのだろうか……?



いつまで、この言葉を気にかけ、怯えなければならないのだろう?





『次はお前だ』





何が次なんだ?




‡‡‡‡‡‡




その言葉の意味がわかったのは、それから更に一ヶ月たった頃だった。





あんな現場をリアルタイムで見てしまった俺は、明かに精神を病んでいた。





病んだ俺は、どんな仕事も長続きしなかった。





イライラが募った。





いつの間にか、怒りは男に向かった。




あの男があの時、女を殺されなければ……





いや、男も悪いが女も悪い。



あんな時間に、出歩かなければ……




あんな時間に……丁度、今頃の時間に。






目の前で、ミニスカートを履いた女がさも『襲ってください』と言わんばかりに歩いている。




イライラした。






俺の手には、ナイフ。





女の後をつける。





女は、ホテルに入っていった。



ああ、あそこに……監視カメラがあるな。





俺は








イライラの原因である女を、手にしたナイフで血まみれにした後






モニターを見て言った。










次 は お 前 だ … …

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