表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/139

滑走

今日は大学のボードサークルのメンバー10人で、とある群馬のスキー場に来ていた。



たまたま男女5人ずつの、計10人。


2台のメンバーの車を使って賑やかに朝の6時には集合場所である自分達の大学を出発し、8時頃にはゲレンデに着いた。



いつもより心が弾むのは、ボードが好きだからという理由だけではない。ちょっと気になっていた、目当ての女のコが来ていたからだ。



今日は彼女と一緒に滑り、一気に二人の距離も縮めよう……そう考えていた。




メンバーが10人もいれば、それなりにバラけて来る。



彼女は薄いピンクのウェアを着込み、真っ白の帽子を被っていた。

とても似合っていて、やはり可愛い。

自分は青のウェアに、やはり白の帽子。

横に並んで、なかなか似合うウェアの組み合わせじゃないか。



自分はボードはジャンプやパイプも出来るレベルなので、どんなコースでも苦にならなかったが、始めに彼女を見失わないようにしなければと、とにかくそればかりを考えていた。



今回のスキー場は、自分は聞いたことのない名前だった。


コースもメインの南側以外に北側にも降りられる様になっており、南側は初心者~上級者、北側は中級者~上級者となっている。




なかなかいいスキー場だった。

大学生という身分を活かして平日に企画をした為か、人は驚く程少ない。



彼女の隣で騒がしくしていた女が、彼女に話しかけているのが聞こえた。


「ここのスキー場ね、結構行方不明になる人がいるらしいよ~」


彼女は怖い話が苦手なのか、青ざめている。

これから楽しもうというのに、不謹慎な奴だ。


話題を変えてやろうと思い、助け船を出した。

「おい、やりたい奴だけ、皆で昼飯賭けてコース競争しないか?」


男5人全員と、彼女ではない女2人が乗ってきた。


彼女の方を見ると、話しが切り替わった事にホッとしている様だった。



ボードサークルと言っても、上手い奴から下手な奴まで、個人の技術は様々だった。



男は自分を含めて上級者4人、中級者1人。

女は上級者2人、中級者1人、初心者2人といった具合だ。



自分は、下心が見えない様に提案した。


「女上級者2人と、男上級者3人は自由に滑っててくれよ。自分は中級者・初心者のフォローに入るから」


これには皆が笑顔で賛成し、それぞれ5人ずつに別れた。


もちろん、狙いの彼女は初心者である。



幸いにも、初心者だった二人は飲み込みが早く、午後には中級者コースに出られる位の実力になった。

狙いのコとも以前よりぐっと話す機会も増え、心なしか彼女が自分に羨望の目を向けている……様に感じる。



昼前に、上級者チームと一度合流し、昼飯を賭けて滑走した。



自分は2位で不満だったが、ビリだった中級者の男に奢られる事になったので、まあ良しとした。



昼飯はちゃっかり狙いのコの隣席をゲットする。


「あ、ちょっと見てよ外…ふぶいてきてない?」


「あ、ほんとだ!やだ~」


窓の外に目をやると、午前中の快晴が嘘の様に雪が降り始めていた。


しかし、まだまだ体力に自信のある大学生だ。そのまま帰る訳もなく、また直ぐに滑りに出る事にした。





「あれ?あの子は?」


皆で昼飯を食べ終え、また5対5に別れてボードを担ぎ、リフトに向かっていると、初心者の女のコ一人がキョロキョロと周りを確認しながら言った。



あの子=狙いのコ、と直ぐに気付き、薄いピンクのウェアと白い帽子を探す。



━━いた。



彼女は二人乗り用のリフトに既に乗り込んでいたのだ。



「俺、追いかけて先に上で待ってるよ」



他の3人に言い捨て、急いでリフトに乗り込んだ。

吹雪のせいか、リフトは更にガラガラで、全く並ぶ必要がなかった。



視界が悪いながらも、彼女の姿を見失わないようしっかり目で追いかける。



━━もしかしたら、二人っきりになれるかも━━



そんな事を考えていた為、どちらかと言えば「金魚のフン」タイプの彼女が、誰にも何も言わずに先に行く事に疑問を持つ事はなかった……




‡‡‡‡‡‡




━━おいおい、マジかよ━━



彼女が、上級者コース向け(北側)のリフトに更に乗り込んだのを見て、自分は慌てた。



午前中まで、初心者だったのに大丈夫なのか━━?



彼女は意外と積極的でマイペースな面もあったんだな、とか考えながら、とにかく彼女を掴まえなければ、と後を追った。


マップを見る限り、上級者コースはなかなかの急斜面が広がり、しかも幅が狭く、スキーには良くてもボードにはきつそうな箇所が所々ありそうだった。



彼女が頂上で立ち往生していてくれる事を願いつつリフトを降りたが、そこには願い虚しく姿が見当たらなかった。



ふとコースを見ると、薄いピンクと白い帽子が滑っていくのが辛うじて視界にはいった。



自分は当然、慌てて追いかけた━━




‡‡‡‡‡‡




滑走する。


雪も木々も風も、全てを自分の後ろに流していく。


彼女に、後少しで追いつく……が、その時!



彼女はコースアウトしてしまった。



コースアウトをした事に気付いていないのか、無謀な事に彼女は木々の間を器用にすり抜けて行く。



自分も無鉄砲だった頃、わざとコース外を走って楽しんでいた時もあるが……大怪我をしてからは流石にやめた。


コース外を走るのは当然危険で、整備されていない為に雪崩が起きたりアイスバーンが酷かったりするのだ。

雪が圧縮されていないため、転んだりしたら抜け出すのも一苦労。



そんなところに初心者が一人で行ったら、危険どころの話ではない……



自分も彼女の滑った後を追った。




‡‡‡‡‡‡




あれ?



彼女に徐々に追い付きつつ、違和感を覚えた。



薄いピンクのウェアに、白い帽子。



白い帽子……だからか?



頭が見えない。



彼女は髪が長いが、その長い髪も全て帽子の中に入れてたっけ?



いや、外に髪をなびかせていた気がする……





視界が悪いから見えないだけか?



滑走しながら、彼女に視線を集中させた……その時。








視界が、ひらけた。








別の言い方をすると。











周りの木々が消えた。








つまり









俺は、崖がある事に気付かず、ボードでそのまま空中に飛び出したのだ。



下まで、物凄い距離。


真っ逆さまに、落ちる。


落ちながら、頭が真下になった。


地面が近づく。





ああ……


あの地面に頭から突っ込んだら……


頭は、体にのめり込むのかな?





落ちていく先の地面には、いくつものウェアが転がっていた。


それが白骨死体で、中に薄いピンクのウェアもあったことに気付く暇は……




彼には、なかった。




‡‡‡‡‡‡




「ここのスキー場さ、穴場なんだけど……なんでも5年前に、うちの大学の先輩が一人行方不明になってから、うちのサークルで使う事はなかったらしいよ?」


「へ~、怖い。それよりも、私今日は先輩狙いなんだから!邪魔しないでよ?」


「あ~、ハイハイ。その先輩はどこに行っちゃったのかしら?」


「えーっと……青のウェアに、白の帽子……あ!もうリフトに乗っちゃってる~~!!」




急いで、先輩に追いつかなきゃ。



大丈夫、私ボード上手いし。



直ぐに追いつけるわ、上級者コースでも……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ