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妄想する女

私は、2時間推理ドラマが好きな、つまらない主婦だ。



ドラマの見すぎか、喧嘩をするカップルを見ると、あの後話がこじれてどちらかが衝動的に相手を殺害し……と妄想し、人の家から出てくるピザ屋の配達員を見ると、実は計画殺人でピザ屋に紛した犯人が……と妄想する。



人生に取り立てた刺激もなく、平凡に生きてきた私にしてみれば、こんなことを妄想するのがちょっとした楽しみだった。



子供のいない私のもう一つの楽しみが、夫婦二人で巡る国内旅行である。



今回の行き先は、海か山か悩んだが、結局電車で沿岸線をずっと行き、そのまま内陸に入って山も楽しめるコースにした。



私は免許を取っていないので、どちらにしても景色は楽しめるのだが、いつもは運転好きの夫が車を出すので、電車の旅は久々だ。



「わぁ、貴方見て……。海がとても綺麗……」


平日の為か時間帯のお蔭か、ガランとした5両編成の電車に揺られながら、夫に声を掛ける。



水平線は綺麗に弧を描き、空も海も真っ青で透き通る様だった。



電車の旅は、車の旅に比べて重たい荷物を何処へでも運ばなければならない事がデメリットだが、ガラガラな車内と海の景色の素晴らしさが、そんな鬱屈を晴らしてくれた。



その時、防波堤に、一人の少女を見かけた。




また、妄想が先走り━━実はあの子は、あそこで既に亡くなった人で……いやいや、あそこに実は身内が沈んでいるのを知っていて━━など、考えはじめた。




電車はやがて、海と別れを告げて、一旦車両を増やして内陸部へ、そして再び車両を減らして山中へと走り続けた。




山の景色も、海とは違って緑が眩しく、みずみずしさが素晴らしかった。


今日はこの線の終着駅で降り、その終着駅まで迎えに来た旅館の送迎バスに乗り込み、温泉を楽しむ予定だった。



今日は重たい荷物の移動でいつもより沢山汗をかいたから、温泉がまた楽しみだった。




「私は先に、温泉で一汗流してくるわね」


私は、トランクに入った夫に声をかけた。




‡‡‡‡‡‡




私は2時間推理ドラマが唯一の楽しみの、つまらない主婦で、仲居のパートをしている。



お客様に対して不謹慎かとは思うが、年齢の離れたカップルを来れば不倫旅行かしら、若い男性が一人でくれば実は指名手配犯で……等と妄想を膨らませては一人楽しんでいる。



「なんなりとお申しつけ下さい」


時期外れにいらした今日のお客様は、30代後半の女性。


ちょっとくたびれた表情をしている。




やけに大きな……普通海外旅行に使うんじゃないの、と言いたくなる様なトランクを抱えてのお出ましに、私はまた妄想を膨らませた。




実はあのトランクには、バラバラに刻まれた旦那が入っていて……


一人旅と称して、実はこの山に死体を埋めに……





なんてね。



そんな訳、ないか。


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