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お化け屋敷

そこの遊園地には、ちょっと珍しいお化け屋敷がある、というので、私は彼氏と行ってみる事にした。



その日は平日で、しかも雨が降っていた為、人気の遊園地はガラガラだった。

いくつかのアトラクションは、雨によって中止になっていたが、お化け屋敷が目的の私達には余り関係なかった。



そこのお化け屋敷は、まるでカップル仕様だった。入り口が左右二つあり、真ん中を仕切る壁には、人の腕がかろうじて入る位のスペースがある。男女手を握って、別々に歩くのだ。

頼りになるのは、お互いに繋いだ手だけ。


勿論、別々に歩かなくても(二人同じ入り口から入っても)いい事にはなっているが、この珍しい仕様に子供連れでも意外と別々でチャレンジする者は多いらしい。




待ち時間は、5分もかからなかった。


なので、歩くタイプのそのお化け屋敷は、前のグループが入ってから、余裕を持って次のグループを入れていた。


前のグループに追いついてしまうと、怖くなくなってしまうからだ。



私は、お化け屋敷が好きな方だったので、ワクワクしながら順に列んだ。


ただ、私達の真後ろに列ぶ男が気になった……というか、気に食わなかった。



男は厚手のジャンバーを着込み、目深に使い古した野球帽を被っていた。

自分の左右の手を逆の手の袖に入れて、まるでよく見かける中国人のイラストの様に手を隠していた。


それはまだいい。


男は一人の様だったが、ずっと列んでいる間中、ぶつぶつと何かを言っていた。

自分はそこまで偏見を持っているとは思わなかったが、流石に気持ち悪く思えた。


彼氏に目配せをして、また列び直そう、とアピールしたが、彼氏はそれに気づかなかったのか、はたまた面倒だったのか、笑顔のまま列を離れようとはしなかった。



いよいよ、私達の番が来た。


興奮して、手を握る。


従業員の人が、怠そうに説明をした。


「中は暗くて危ないので、走らないで下さい。また、怖くてそれ以上歩けなくなったら、非常口マークに入りますと外に出られますので、そちらをお使い下さい。では、いってらっしゃいませ」





中は、確かに真っ暗だった。


一番始めにあったのは、お化け屋敷の定番、ろくろ首だった。



音響効果も、いわゆる定番。



正直、全く!怖くない。




私は3つ目の作り物で既に飽きて、壁一つを隔てたあちら側にいる彼氏に声をかけた。



「ねぇ、そっちはどんな感じ?」


「今?お岩さんが目の前にいる感じ」


「そうなんだぁ~こっちは影武者。一応、造りは違うんだね~」


こんな感じで話をしていると、更にお化け屋敷の怖さは半減したが、握り締めた手の温もりが『カップル』を象徴しているみたいで、別の意味で楽しくなった。



彼氏も同じ気持ちなのか、先程よりもぎゅうっと握り締めてくる。



と、その時。



『ぎゃあ!!!』



という、くぐもった悲鳴?が聞こえた。


私は、彼氏の方の音響かと思い、声を掛ける。



「そっち、何か出たの?」



返事はない。



かわりに、彼氏の汗が手に滴りおちてきた。




何かあったのかと、彼氏と繋いでいる手を見ると。





そこに。






手を出す為の隙間から、二つの目がこちらを覗いているのが見えた。







「キャアアアアア!!!!」





私は彼氏と手を繋いだまま、走った。



私の手の動きに合わせて、彼氏もついて来てくれている様だ。




出口の光りが見えた。




前の人の影もなく、そのまま走って出口を出ても、問題なさそうだった。





あの目は、何!?





汗っかきの彼氏の手が、大分ヌルヌルしている。





やっと、出口━━!!!






「キャアアアアア!!!」



私達を見て、今度は出口にいた人達が、悲鳴をあげた。




???




「なにをビックリ……」




してるんだろーね、と私は彼氏に言うつもりだったが、そこに彼氏はいなかった。



手は繋いだままなのに。




手は……





彼氏の手は……私と繋がったまま、肘の辺りで切られていた。




私の手には、彼氏の腕から大量に滴る血が纏わり付いていた。





私はその場で気を失い。




後で、病院で目覚めた時に。



私達の後ろに列んでいた精神をきたした男が、ジャンパーの中に凶器を隠して持ち込み、彼氏を襲った事を知った。



彼氏は始めに私と繋いでいた腕を切り落とされ、更に命も失った。





あの時私が見た二つの目は、その男の狂気に満ちた目だったのだ━━……

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