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執着

怖い。



実の弟が、怖い……。




何時からだろう?

私がそんな風に感じ始めたのは。



母親ひとりに育てられ、私達はお互い協力しあって成長してきた。


弟が望むものは極力叶えたけど、ずっと一緒にいられる訳ではない。



家族なのだから、血が繋がっているのだから、お互い結婚したとしても、縁が切れるわけじゃないでしょ?



何度説明しても、駄目だった。

弟の私への執着は、ますます激しくなっていく。



私はもう、精神的に、堪えられないところまできていた。




もう……




もう……………




‡‡‡‡‡‡




忍は、今回の依頼人を見て顔を歪めた。




……世も末だ……




そう、思ってもおかしくない人物がドアの向こうに立っていた。



真っ青な顔をした、若い女性。



金にならないのは百も承知で、一先ず、話しだけでも聞く事にした。



女性は取り乱しながら、忍に途切れ途切れ話した。




「私……、もう、弟から逃げられないのでしょうか……」



涙をポロポロと流して、語り出す。



「夜になると、弟が私のところに来て……ずっと、ぐるぐる、私の周りをまわるのです。一晩中。口の中で何か唱えながら……!!


もう、恐ろしくて、怖くて、動けなくて……!!


弟がいない、昼の間だけ、こうしてなんとかここまで来る事が出来たのですが……弟を、弟をなんとかして頂けないでしょうか……」


忍は、はぁ、とため息をついた。


「なんとかしてあげたいですが……弟さんの力で、家に上がる事を阻まれると、ちょっと難しいかもしれません……」



「そこをなんとか……弟を、私から引き離して下さい……」



若い女の、涙ながらの訴えに、忍は重い腰をあげる事になった。




‡‡‡‡‡‡




もうすぐ、24時。そろそろ、弟が現れる時間だ。


その時。

玄関の鍵が、カシャンと開いた。

キィ、と音がして、真っ暗な部屋の中にその男は入ってきた。



「……やぁ、姉さん……今日も待たせたね……」



暗い、暗い口調で、男は囁く。

もし、テレビでも付けていたならば、掻き消される様な低い声。



「……!!なんだ、お前は!!」



そこで男は忍に気付き、カッと目を見開いて叫んだ。



「姉さんは何処だ……姉さんに何をした!!」




「そのお姉さんに頼まれてやってきた、除霊師です。この家の霊を除霊させて頂きます」



すう、と息を飲んで男と対峙する。



男は除霊、という言葉を聞いて、顔色を変えた。



「やめろ……やめろ!!」



「貴方のお姉さんの、願いです」



「姉さんはずっと俺と一緒にいるんだ!!」



「お姉さんは、貴方が夜な夜な現れるのを、怖がっているのですよ」



「そんなの、嘘だ!!インチキめ!!」



「では、身を持ってインチキかどうか見定め下さい」



「姉さん……逃げろ!!俺と一緒に逃げるんだ!!」




「では、お姉さん(・・・・)の霊を除霊させて頂きます」




‡‡‡‡‡‡




「本当に、世も末ですねぇ」



道隆はのんびりと、パトカーのサイレンでにわかに騒がしくなった女性のマンションを見遣りながら忍に言った。



「はい、本当に」



何が悲しくて、霊に依頼されなきゃいかんのか。



それもこれもみんな、あの変態弟のせいなのだが……忍はやり切れなかった。




若い女性は、弟を置いて行方をくらます予定だったが、直前にバレて弟に殺された。


弟は、姉を殺した後でも、その魂を引き止める為に、毎夜姉の遺体の周りで呪を唱えていたという。


成仏したくても弟に邪魔をされて出来ない姉は、除霊師を求めてなんとかして貰おうとした。




霊は大丈夫でも……本物のご遺体はちょっと……


忍は、先程から催してくる吐き気と戦いながら、それでも若い女性が最後に「失礼ね!でもありがとう……」と言ったのを聞き逃さなかった。

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