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判決の館

その館の主人(執事?)は、白と黒、二つの扉を後ろにして言った。




「あなた方のうち、天国と地獄へ、それぞれお一人ご案内致します。



明日のこの時間…24時ぴったりに、この扉の前で、二人同時に願いを口にして下さい。



願いの言葉は、二つのうちどちらか一つです。



自分が天国に行くか。

相手を天国に行かせるか。



ただし、二人の願いが一致しない限り、その願いが叶えられる事はありません。



ご相談は自由ですが、ご質問は一切受け付けません。



では、明日の24時までごゆるりとお寛ぎ下さい」



主人(執事?)が二階へ消えると、その場に残された若い男女━━翔太と友子━━はお互い顔を見合わせた。




「どういう事かしら?」


友子は翔太に尋ねた。


「私達、ドライブしてて……事故に遭って、気付いたらこの館の前に二人して立ってて」


「……つまり、僕達は既に死んでいて、これから天国か地獄に行く、と。それをこの館で決める様だね」


友子はカッと目を剥いて翔太を見た。


「冗談じゃないわよ!何かの間違いじゃない?だってここ……こんなに人がいる……」



友子の言う通りだった。



二人はこの館のホールにあたる場所に立っていたが、そこは無人ではなく、人が何人も出入りしていた。



試しに、友子はその中の中年女性に話しかけてみた。

……が、全く反応はない。あえて反応をしないというより、全くこちらの声や姿が見えていない様である。



「……一先ず、部屋で考えて休もう」


翔太が言った。





「ねぇ…私、天国に行きたいわ」


友子が甘える様に、翔太に言った。


「そりゃ、僕だって行きたいさ」


翔太が苦笑しながら応えた。


「なによ!元々翔太が誘ったドライブでこんな羽目になったんじゃないの!!……」


友子は美しい顔を歪ませて翔太に怒鳴ると、最後は涙目になって泣き崩れた。


「けど…二人とも天国に行ける方法をまず探そう」


翔太は冷静に話す。


「そんなもの……、…あったら最初にあの男が言ってるんじゃ………」


「そうとも限らないよ」


「……確かに……あの男、二人の願いが一致しなかった場合…その後、二人がどうなるのかは…言わなかったわね!!」


友子はそれに気付くとがばっと顔をあげ、翔太に提案した。



「二人とも、お互いの天国行きを願うってどうかしら?ここはわざと願いを無効にして…、次の課題に取り組みましょうよ!!」


友子は目を爛々と輝かせた。彼女がそういう表情をしている時は、もう後に引かない。


…それをよく知っている翔太は、少し考え…



「そうだね、そうしよう」


と答えた。



「では、あなた方の願いを口にして下さい」



二人は同時に口を開いた。

















「友子を天国に」

「アタシを天国に」



翔太がゆっくりと友子の方を向くと、友子は翔太の方を見てニヤリと笑った。



「ありがと、翔太。お蔭様でアタシ、天国に行けるわ」



「お二人の願いは一致したので、友子さんは白い扉へ、翔太さんは黒い扉へお進み下さい」


友子はもう翔太に構う事なく、振り向きもせずに白い扉へ入って行った。




残された翔太は…


諦めた表情で、黒い扉の把手を握りしめた。



彼の頭の中には、今までの人生が走馬灯の様に駆け巡っている。



彼は知っていた。


友子が、恐らく彼女の天国行きを願う事を。

それでも、一縷の望みを掛けてみた。

もしかしたら、自分を本当に愛してくれていたのかも知れない、と…



結局その、はかない希望は砕かれたが、彼女を選んだ自分への、自業自得と考えられた。



元々、女性に免疫がない翔太は、美しい友子の猛アタックに━━それが家の財産目当てだったとわかっていても━━逆らう事が出来なかった。


友子を個人として、やっとその人格を見る様になった結果…別れよう、と結論を出したのだが、その矢先の事故だった。



彼女を選んだのも自分。

気付くのが遅かったのも自分。

ドライブに誘ったのも自分。



友子が望むなら、最期にお金で買えないプレゼントを贈るのもいいか…そう、純粋に、思った。







「あ、言い忘れましたが、私、嘘つきなんですよ」



翔太が、今まさに黒い扉を開け、その中の真っ黒な闇に足を踏み入れた瞬間、後ろから館の主人(執事?)が声を掛けた。



翔太は真っ黒な闇の中に引きずりこまれながら、その声を聞いた。



「天国は、自己愛の高い人を好まないんですよ。


長年この仕事をしていて、最初に話したお話が、自己愛溢るる方を選別するのに一番だとわかった訳です。


天国とは、転生の事です。翔太さん、また次の人生の終わりに、お会いしましょう…」



闇は、あたたかな鼓動と共に翔太を受け入れた。まるで、母親の胎内にいる様に。




そして…閉まりかけた黒い扉の向こうから、友子の甲高い叫び声が…聞こえた気がした━━


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