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お風呂

「……潤、この長い髪は何!?」



我が家に帰宅すると、麗しの彼女が仁王立ちで待ち構えていた。



つ、角が見えるぅ~~!!



と、いつもなら冗談を言うところだが、どうも彼女の様子がおかしい。



ここは笑いに走らず、真面目に聞いてみる事にした。(後で潤はこの判断をした自分に心から拍手喝采を送る事になる)



「長い髪は何って?まさか家の中に落ちてたのか?」


「うん……そう……今日、潤がいない間にお風呂掃除してあげようって……そしたら排水溝に……」



最後の方は、ほとんど涙声だった。



潤は勿論髪を伸ばしてはいないし、家に出入りする彼女は肩までの長さだ。

しかも、彼女は茶髪だが、彼女がつまんでこちらに見せ付けている髪は真っ黒。腰程までありそうな長さだ。



母親や姉も何度かこの家に来た事はあるが、風呂は入った事がない。



潤は泣きじゃくる彼女を一先ずソファに座らせ、ベランダや玄関を調べ始めた。



「……何、やって、るの?」



ウサギ目もぷりちーな彼女が聞いてくる。


「正直、俺には全く覚えがない。考えられるとしたら、たまたま電車かなにかで一緒になった人のとか……すばり、俺のストーカー」



キラーン、と漫画なら効果音付きだっただろう。


真面目な顔をして言ったのが幸いしたのか、彼女はその後しばらく大笑いしていた。




「勝手に他人が風呂とか使ってたら、真面目にこえーよ」


「確かにそうだね」



「……風呂か~……気分転換に、一緒に入ろっか♪」




潤は、彼女のジト目を見なかったふりして、スキップを踏みながら風呂にお湯をはりに行った。



普段、潤は朝に軽くシャワーを浴びるだけで、風呂に浸かる事は殆どない。



逆に彼女はお風呂が大好きで、この家にも入浴剤を大量に持ち込んでおり、一度入ると長風呂だ。



一緒にお風呂に入ろう、と言い出したのは、お風呂に入れば彼女が落ち着くだろう、というのと、風呂も調べたかったからだ。


風呂への関心1割、彼女への気配り5割、下心4割といった比率だ。



湯をはる前に、ガコン、と風呂場天井にある点検構を外し、天井裏も調べてみる。



……よし、異常なし。埃だらけ。



潤は湯を溜めはじめた。




‡‡‡‡‡‡




広いとは言えない湯舟にしばらく二人で浸かっていたが、普段シャワーしか使用しない潤はすぐにギブアップし、洗い場に移って体を洗い出した。


正面に鏡、左手に湯舟があり、右手に出入口という間取り?だ。



潤は右利きなので、湯舟のお湯をかける時に湯舟の方を完全に向くか、右腕をぐっと伸ばして手桶に湯を組まねばならない。



普段シャワーしか使わないくせに、不便だなぁ~と思っていた。



体の次にゴシゴシ髪を洗っていると、彼女が手桶で髪を流し出してくれた。



ま、まだタイミングが早ぁい~~~!!!



……と口に出かかったが、折角彼女が流してくれているんだから……と、何も言わずにそのまま恩恵を受ける事にした。



誰かといると、こういう些細な心配りが嬉しい。




「ん、もう大丈夫。ありがとう」


ニマニマと不気味な笑顔を浮かべて、彼女にお礼を言った。



「何が?」



彼女はきょとんとした顔をして潤を見た。



「いや、髪を流し……」


てくれて、と言おうとした潤の視界のの右端に、手桶がはいってきた。




正面に鏡。左手に彼女。右手に手桶。




「私、ずーっと潜水してた♪」



駄目押しがきた。


彼女が風呂に入っている時の褒められない癖の一つに、湯舟の中に潜る、というものがある。




それをずーっとしていて、いつ、潤より向こうの手桶を掴んで、髪を流す手伝いをする暇があったのだろう?




……はぁ、とため息をついた潤の視界の今度は左端に、排水溝がうつった。



彼女が先程掃除をしてくれたにもかかわらず、そこには、大量の真っ黒な長い髪の毛が絡み付いていた……




‡‡‡‡‡‡




「道隆君、ちょっとお願いが」



「お断りだ」



普段と違う呼ばれ方に、ろくでもない相談だろうと思い、道隆はぴしゃりと潤に言い放った。



「いや、あの、その、道隆というより忍ちゃんにお願いが……」



「なんだお前、また憑かれたのか」



「助けてくれよ~、彼女に俺の無実を証明してくれよ~~」



潤にしてみれば、霊に憑かれた事より彼女の誤解がとけない事の方が問題だった。



「よしわかった、100万用意しとけ」



「ウン、1万ね、了解~~」


「今日はうちのお嬢さんはフレンチの気分だ」


「あいさ~~」



結局、道隆がお金を潤に要求した事はないが、本物の除霊師に面倒みて貰って、タダ、という訳にはいかない。



普段は食べられない様なレストランを潤が予約しておいて奢る。

それが、道隆と忍と潤の間でなんとなく決まった取り決めだった。



さて、皆で楽しくグルメディナーといきますかね。



潤は早速、彼女と一緒にレストランのネット検索を始めるのだった。

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