実験結果
その心理学者は、はぁ、とため息をつき、招かれざる客の刑事を迎え入れた。
「では、何故こんな事になったのか教えて下さい」
刑事はニコリともせずに、単刀直入に切り出した。
その学者は、一枚のUSBを刑事に渡して言った。
「まず、これを見て下さい。これはある実験の光景なのですが……これが全てを物語っています。」
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「さて、俺らの愛を語らおうか」
「……改めて言われても、困るわね」
「それじゃあ、まずお互いの気に入っているところから」
「ジョンは……そうねぇ、素直で実直で真面目なとこかしら?余りにも人を疑わないから、ちょっと不安になるくらいだけど……」
「俺は、う~~ん、サバサバしてるけど、女らしいところかな。物怖じしたところなんて見たことないけど、ケーキ選ぶ時は散々悩むもんな」
「あはは、好きな物が二つ並んでいたら悩むでしょ~?」
「あ、今のところ気になるかな。好きな人が二人いたらどうするんだよ?」
「勿論、一人に尽くします」
「ほんとか~?浮気したら俺、何するかわからないからな!」
「ほんとよ。ジョンこそどうなの?」
「俺はマリー一筋さ!神にかけて誓うよ。マリーを裏切ったら、死ぬ」
「ちょっとジョン、これ映ってるのよ?恥ずかしい……」
「いいんだよ、って言うか、そうしろって指示だろ?代わりにマリーが浮気したら……殺すよ」
「やだ、怖~い!!私が愛しているのは、ジョンだけよ」
「俺もマリーしか見えないよ」
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ここで画像は終わっていた。
確かに、ジョンは「殺す」とは言っているが、マリーとは上手くいっている様にしか見えない。
「これは、人が嘘をつく時の仕種のテキストにする予定だったんです。……けれども、私はこれを使う事が出来なくなってしまった」
「……というと?」
「私は彼等に、条件として『必ず会話の中に嘘をひとつ以上織り交ぜる事』とお願いしました」
「成る程。……で?」
「ジョンは、ここで嘘をついています。『時間にルーズだ』と責めるところですね」
「マリーは?」
「マリーは……ここです。『貴方一筋』というところと……『愛してる』」
「……あちゃー……それは確かに、テキストとして学生には見せられませんね」
「私は、バイト代はきっちり払った上で、一応ジョンにマリーと別れる事をオススメしました」
「何故そんな事を言ったのですか?」
「そりゃあ、自分の甥が馬鹿にされていたら誰でもそう助言するでしょう?」
「……貴方は、嘘が見破れるのですよね?先程の映像でも、ジョンが言った嘘の部分は『時間にルーズのところだけ』とおっしゃった。……では、『裏切ったら殺す』の部分にも嘘はなかった、という事ではないですか?」
刑事にそう指摘されて初めて、心理学者は自分のとった行動の過ちに気付いた。
「……これが、貴方の今回の実験結果ですよ」
刑事はUSBを抜き取り、かわりに惨殺されたマリーの遺体と、遺体に寄り添う様に首を切って自殺したジョンの写真を、机に叩きつけて去って行った……