演出の仕方
その3人は会議室で、幽霊による恐怖の演出について談議していた。
A「そもそも普通、幽霊って言うと《体の一部》の出現だと思うけどなぁ」
BC「《体の一部》?」
A「つまり、100%人間である箇所を見せながらも、欠けている人間って事。よくあるのが、腕、足、目、頭とかさ」
B「……今思ったけど、頭の欠けてるゴキブリの霊を見ても余り怖くないかも……」
C「嫌だ、ある意味怖いわよっ」
A「ん~恐怖を感じる対象はやっぱり霊といっても人間が一番なんだろうな」
B「足のない猫ちゃんとか見たら、虐待されたかと思うかも」
C「ちょっとB、さっきから真面目にやってるの?」
A「はは、えっと話を戻して……まず人間の幽霊。これは大前提。そして、生きている人間と条件が整っている霊程、恐怖を感じない、と」
C「条件が整ってるって?」
A「例えば、影。姿形も鏡に写って、更に影もついてたらそんなに怖くないだろ?」
B「てゆーか、それ気付かない可能性大だよ」
C「あ、でも、他の小物があったら話は別じゃない?」
B「血とか?」
A「ああ、そういう意味で言うと、姿形ってのは視覚だから……他の五感に訴えるのも意外といけるか」
C「ヤダ~怖い~!!あれでしょ、鮫が出てくる時にチャーラ、チャーラ、チャーラ、チャラチャラチャラ……で、ばくっと」
A「……いや、ジョーズの話じゃなくって……」
B「ジョーズは置いといて、確かに聴覚に訴えるものも多いよな。死者の声、足音、ドアを叩く音とか」
A「よし、まず聴覚については一つ採用しよう」
C「足音を採用した時に、足のない幽霊出てきたら超ウケル~!!」
A「……そこは気をつけよう」
B「したらさ、五感は一つずつ採用すれば?触覚もさ、耳元の吐息とか、いきなり手とか足を捕まれる、とか色々あるじゃん」
A「そうだな……耳元で風を感じるくらいに近づいて囁く、というのを採用すれば、聴覚触覚はクリアだな」
C「あ、手抜き」
A「怖ければいいんだ、怖ければ」
B「視覚は最後として……後は味覚?」
C「それは無理じゃない?流石に……」
A「……よし、料理の中に血でも混ぜとこう」
BC「そんなんあり!?」
A「……冗談だ。無理そうだったら無理に採用しなくていいから」
B「えーっと……後なんだっけ?」
C「鼻よ、鼻」
B「嗅覚か」
A「幽霊の臭い……なんて聞いた事あるか?」
BC「ない」
A「……だよな」
B「けどさ、状況的に使える物とかもあるんじゃないかな?ドブ臭い匂い、とか」
C「あたしそんなのヤダ~~!!」
A「……それじゃ、それも却下の方向で」
B「後は視覚か~」
A「どっちの方が怖いか、だよな。より見せるのと。見せないのと」
C「どういう意味?」
B「お前なら、頭だけ浮いて見える霊と、顔だけない霊、どっちが怖い?」
C「どっちも怖いわよ!!」
B「う~ん、どちらも捨て違い、と……」
A「逆に、より怖くないのは?」
C「う~ん……怖くない霊をあげる方が難しいんだけど……」
A「確かに。そりゃそうか」
B「やっぱり、霊っていうと怨念篭る様なやつが怖いからさ、その時の死に様がいっちゃん怖いんじゃないかな」
A「事故で死んだんだったら……内蔵破裂してたり、頭蓋骨が割れてたり、手足が有り得ない方向に曲がってたりか」
B「そうだね、見た目どう考えても死んでいるくらいの傷を負っているのに……それでも動いている、と」
A「あ!大事な演出を忘れてるよ!霊の動きだけど……」
B「そりゃ動かれたり……いや、近づかれたりする方が怖いだろ」
C「後さ、助かった!と安心した後に、真後ろに実はいる……とかマジ勘弁」
A「ホラー映画とかでよくある手だな。けど、それは効果があるからいつまでもなくならない手法という事か」
B「ホッと安心、その後ズガーン!作戦採用だな!」
AC「何そのネーミング……」
B「なんにせよ、これで大分まとまったんじゃないか?」
C「よーし!後は当日頑張るぞー!!」
A「そうだな、今日はこれくらいでいいか。お互い提案が被らない様に最後にすり合わせだけして、当日に備えよう」
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それから一週間後、ひき逃げ事件でしばらく動きがなく、行き詰まりをみせていた捜査本部がにわかに騒がしくなった。
犯人が出頭したからだ。
犯人は出頭当時、気が狂わんばかりに、自分が飲酒運転で轢き殺した3人に対して、謝り続けていたという。
その犯人に恐怖の演出をしたのは、轢き殺されたA、B、Cである事は記載するまでもないだろう。