前世を視る男
ハイハイ、こんにちは。初めまして、旦那。
私が前世を視る男ですよ。
お金は前払いでお願いしますね、私の話を聞いて激怒して、金を貰う処か殺されそうになった事もあるんですからな、ハイ。
いや、今のは言葉のあやですよ。例え話。
でも、本当に話を聞くだけ聞いて、金くれなかった人がいたことは事実でさぁ。
だから、前金でお願いしますよ、旦那。
ああ……ハイハイ、確かに。有り難く頂きます。
では早速、視てみましょうかね……
ああっと、今から眼帯外しますがね。
驚いて逃げないで下せぇ、この眼が商売道具なんですから。
え?噂で聞いている?それなら話も早くてすみますわ、旦那。
どうです、ちょっと気味悪いかもですがね。
ハハ、そんなに興味津々で見られたのは初めてですが、悪い気はしないでさぁ。
ええ、わかりやすく言うと、白目と黒目が逆なんですよ。
目に細工もしてませんし、当然義眼でもない。
ただ、黒目(通常の人の白目に当たる部分)はちと日光に弱くてね。
こうして眼帯してるんでさぁ。
こんな眼でも、きちんと物は見えるつくりになってますよ、ハイ。
ただ、見えるのが、通常のモノ以外にもある、というのがわかったのは、私が……15歳位になった時でして。
おっと、話が脱線しましたなぁ。
私の過去の話はどうでもいいんで、旦那の前世を視させて貰うとしますかいな。
ん?今までどんな前世を見てきたかって?
いやー、ほんとは個人の話をしちゃいけないんですが、ちょっとだけですよ。
結論から言うと、みんな、前世と何かしらの共通点がある仕事とかにこの世でも就いているんでさぁ。
例えば、とある手品師!前世はスリ師だったなぁ。
他には、前世はサーカス団員だった鳶職とか、前世は漁師だった水泳選手とか。
ああ、お気遣いありがとうございます。
それじゃ、ホットコーヒーでお願いしますよ。
そういや、この前とんでもない前世の奴がいましたよ!
前世が大量殺人犯の肉屋でさぁ……
金より命が惜しいってんで、とにかく視た後、命からがら逃げましたよ。
その点、旦那は医者だからなぁ。
私の予想じゃ、学者とかその辺じゃないですかね?
え?それじゃ今と余り変わらない?
ハハ、すみませんね旦那、イマイチ学者が何しとるんだかわかっていやしないんですわ。
あ、どうもどうも。
はー、美味いですなぁ。
こんな香り高いコーヒーめったに頂けませんわ。
さて、ではそろそろ旦那の前世ですね、いっちょ視させて頂きましょうか。
んー……
旦那、前世は骨董屋の主人ですな。
いやー……珍しいですな、全く今のお仕事とリンクしていないと言うのも……
え?
そうでもない?
ははぁ、それは旦那、意外と収集癖があるとかですかい?
おお!
見させて頂けるんですか、それは是非。
あ、隣の部屋にあるんですか。
それじゃま、失礼致しますよ。
……旦那、コレ……
……あー……
あんまり、趣味のいいコレクションとは言えませんなあ。
いやいや失礼、お客に向かって。
好みはそれぞれですからな、私があれこれ言う事もありゃしませんて。
いや、これ以上はもう結構。
私の心臓が持ちませんわ。
……はー、こっちの客間の方が、私にはいいですな。
コーヒーは冷めても美味いですし。
それじゃ旦那、先程の前世の話の続きを。
え?もういいんですかい?
はぁ、こっちは問題ないですが……珍しいですなあ。
普通、何処に住んでいたかとか、何時の時代だとか、根掘り葉掘り聞くもんですが。
ええ、ええ。
それじゃま、旦那がそうおっしゃるなら帰らせて貰いますわ。
そういや旦那、旦那に私を紹介したのはどなたさんですかね?
いやぁ、こちとら商売ですから、そちらさんにもお礼言わせて頂きませんと。
……え?
……はあ……そうですか……
旦那、その……言い辛いですが、その肉屋とはお付き合いは止めた方がいいかと……
では、失礼させて……
あれ、体が……動かない!!
……旦那!
旦那!!私に何を飲ませたんですかね!?
え!?
私を……私の眼を、あの趣味の悪いコレクションの1つにするって?
いや、それは止めた方がいい!流石に私だって黙っちゃいない。
訴えさせて貰い……え?
いや、命は勘弁して下せえ!!
旦那だって、死体が見つかったら困るでしょ!!
肉屋がなんとかしてくれるってそんな!!
旦那!!
旦那!!やめ……!!!!
次の日。
とある肉屋には、幻の肉が店頭に並び。
とある医者の、不気味な奇形コレクションの中には、新しい眼球が加わったという。