更新
私は、かなり激しく落ち込んでいた。
携帯を水没させて、自分の携帯小説サイトを更新出来なくなったからである。
もともと、携帯に疎く、パケ放題?にしたのもつい半年前。
趣味だった小説を携帯サイトで読んでいるうち、自分でも書いてみよう!と思いついたのがつい3ヶ月前。
なんの知識もなかったが、毎日更新!を目標に、細々とホラー短編小説を書いていた。
携帯を水没させたのが、つい昨日の事。
私は新しい携帯と格闘しつつ、なんとか、友人達のデータだけは取り込む事が出来た。
けれども、携帯小説サイトだけは、『機種変更された方へ』という説明ページを何度読んでも、意味不明で理解出来なかったのだ。
私は丸一日悩んだが、結局、再度新規登録をする事に決めた。
今までの、3ヶ月の頑張りが全て無に帰した様で、悲しかった。
ホラー小説なんて物しか書いていないが、それなりに愛情込めて?頑張って更新してきたのだ。
閲覧回数が1コでも2コでも増えていくのはとても嬉しく、また頑張ろう!と小説を越えて、元気の源になっていたのに……
何度か、やり取りさせて頂いた読者様や、著者様にだけ連絡させて貰おう。
気持ちを改めて、新規登録した私のページから、前の私のページを検索して飛んでみた。
『関谷 れい』
というのが、私のペンネームだった。
この三ヶ月、毎日更新している中で、丸二日何もしなかったのは、初めてだ。
もしかすると、Aさんなんかはちょっと心配してるかもしれない……な。
そう考えると、気が逸った。
私は、まず自分のプロフィールに飛んで、そこの伝言板から連絡を取りたい方々のプロフィールに飛ぶ……予定だった。
しかし、懐かしいページに飛んだ私は、自分の目を疑った。
更新……されている。
え?
なんで更新されているの?
何度か瞬きをし、何かの間違いではないか、とよく確認してみる。
水没させた日の伝言板には、やはりAさんの書き込みがあった。
Aさんの伝言板に飛んでみると、『関谷 れい』からの書き込みがあった。
勿論、私はなんの書き込みもしていないが……確かに、私の名前を名乗る者が、書き込んでいるのだ。
この小説サイトでは、同じペンネームの登録は出来ないように出来ていた。
私も当然、『関谷 れい』ではなく『・関谷 れい・』で新しく登録したのだ。
何がなんだかわからなかったが、私の名を語られるのはいい気がしなかった。
そこで、携帯サイトを運営している会社にメールで問い合わせてみた。
……その携帯サイトが、私のサイトを他人に売った?等という事も頭をよぎったが、残念ながら、知名度が無いに等しい私のサイトは、売っても何の利益にもならない事は、私が一番わかっていた。
また、携帯サイトの運営会社はなかなかしっかりしているらしく、素早くメールの返信があり、そこにはきちんと登録された携帯機種から入力されている事が確認出来ているとの事と、不快にさせたお詫びと、差し支えなければ何かエラーが確認出来た時の連絡先として私のメアドを登録させて貰っていいかという内容が書かれていた。
恐る恐る、私は更新されたホラー小説を開いてみた。
そこには、確かに私が携帯を水没させる迄の拙い文章が載っていたが、目次欄が増えていた。
『自由』
という表題で更新されたその短い物語は、私の書いた他のどんな作品よりも気持ち悪く、薄気味悪く、恐ろしく、目に浮かぶようなリアリティがあった。
私は毎日様子を覗きにそのページに飛んだが、その度に私のホラー小説は更新されていた。
私の時は細々とあがっていた閲覧数も、今ではうなぎ登りだ。
誰が、なんの為にこんな事をするのか。
誰にも使えないハズのアカウントで、インする誰か。
私の名前を語り、様々なやり取りをしている誰か。
どんな話でも、人を残酷に殺す描写を入れる誰か。
誰か、が誰か、私以外には誰も不思議に思われない誰か。
私は恐ろしくなり、以後、そのサイトを脱退して訪れる事はしなくなった。
あなたが読んでいるその物語……本当にこの世の人が生み出しているの?