両親へのご挨拶
道隆「初めまして、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。忍さんと、半年前から交際させて頂いております、神楽道隆と申します。」
忍母「あら!ご丁寧にどうも!!何のお構いも出来ませんが、ゆっくりしてらして!!」
忍父「大事な道祖土の一人娘を、何の霊感もない奴にはやらん!!今すぐ帰れ!!」
忍「…」
道隆「あの、これ…お父さんがお好きだと伺ったお酒をお持ち致しましたので、よろしかったら…」
忍母「あらあら!お父さん、ほら、貴方の好きな日本酒!!」
忍父「お、んじゃ早速、そこにあるコップに注いでくれ」
忍「…」
***
道隆「お母さんにも、こちらのお菓子がお好きだと伺ったので、よろしかったら…」
忍母「あらあらあら!!私の好きな○○のバウムクーヘン!!しかも、季節限定よ、貴方!!」
忍父「うむ…いや、こんなんで絆されんぞ。まずそのお父さんお母さんと呼ぶのをやめろ」
忍「…今度、道隆さんと一緒に住むことにしました」
道隆「お仕事も一緒にさせて頂いているので、事務所兼住居を探そうというお話をさせて頂いております」
忍母「あらあらあらあら!!忍ったら、独り暮らしの癖に全く生活能力ないけど、ご迷惑お掛けしないかしら?」
忍父「ならーーーーーん!!何をいきなり!!結婚前の男女が同じ屋根の下に住む等、言語道断!!」
忍「…結婚が先ならいいのですか?」
***
道隆「勿論、結婚を視野に入れてのお付き合いをさせて頂いております」
忍母「あらあらあらあらあら!!きゃー!!まさか忍ちゃんが!!顔は可愛いのに、愛想なしで根暗に見える忍ちゃんが!!赤飯炊きたいっっ」
忍父「けけけ結婚だとうっ!?道祖土に入るなら、それ相応の霊感がだな…」
忍「お父さん、道隆さんなら大丈夫です。霊感があまりないかわりに、霊に好かれる体質の人を呼び寄せるから、仕事は増えてます」
道隆「すみません、霊感は一般的にしかないですが…」
忍母「いいのよ、いいのよ、お父さんなんて皆無じゃないの!!」
忍父「いや、それはそうだが…だからこそ、」
忍母「忍ちゃんはもう30目前なのよ!?娘がこの機会逃して一生独り身でもいいの貴方!?!?」
忍父「いや…それはそうだが…だが…」
忍「お父さんお母さん、祝福してくれてありがとう」
道隆「ありがとうございます」
忍母「その代わり、もっと顔見せなさい。半年に一度なんて、お母さん寂しすぎる」
忍父「そうだぞ、せめて1週間に一度…」
忍「次は5ヶ月後に来られる様、努力します。では、そろそろバスの時間なので」
道隆「失礼致します。また、ご挨拶に伺います」
***
道隆は、深々と忍の両親が眠る墓前で一礼すると、先にスタスタとバス停に向かって歩き始めた忍の後を追った。
「忍様、じゃない、忍。ご両親の反応、どうでした…どうだった?」
「…バッチリです。両親とも、とても喜んでいました」
「それは良かった」
「お墓、こんな遠くですみません。本当は近くに移したいのですが、両親がこの眺めを気に入っていまして」
「や、ちょっとした小旅行みたいで楽しいです…、楽しいよ?」
「では、また5ヶ月後に一緒に来て貰っても良いですか?」
「勿論」
道隆がニッコリ笑うと、忍も30近くになってやっと獲得した、陰気さの消えた笑顔を返した。