なんでも屋
俺の仕事はなんでも屋である。
最近増えてきた仕事は、遺品整理。
やー、高齢化社会バンザイ。
仕事を増やしてくれて、アリガトウ。
今回は、中年の夫婦から依頼を受けた。
なんでも、疎遠にしていた姪っ子の部屋を片付けて欲しいとの事。
中年の夫婦の、妻の方の兄の娘らしい。
↑「の」が多いが、理解出来ただろうか?
その姪っ子は、自分の息子とともに、その部屋で強制的に人生の幕をおろした。
所謂無理心中と言うものだ。
息子は中学三年生で、高校が決まった矢先の事らしい。
俺の、下の息子と同い年だ。
そう思うと、何だかやるせなくて、遺品整理に入る前に併せた手は何時もより長かった。
しかし、高校受験が全滅って言うのならまだしも、なんだって折角受かったのに、心中なんかしたんだか。
まぁきっと、それだけではない諸々の事情があったんだろうが。
夫婦の旦那の話では、その血の繋がらない姪っ子は、問題児だったらしい。
まだ学生のうちに父親不明の妊娠をし、家を飛び出している。
夫婦の妻の方の兄は怒り狂い、娘と絶縁。
不憫に思った夫婦の妻が、細々とだが、年賀状位のやり取りをしていたらしい。
いつか何かで頼ってくるかもしれない、そう思っていたが、その姪っ子が夫婦を頼る事はなく…警察からの連絡で初めて姪っ子とその息子の死を知った。
絶縁状態の兄夫婦は警察からの連絡にも全く取り合わず、困り果てた末に今回依頼をしてきた夫婦の元へ連絡が来たらしい。
その部屋はまだ血痕があるものの、綺麗なものだった。
殺伐としている、と言っても良いかもしれない。
遺品整理は、基本物に溢れた部屋に対して行う事が多いので、今回は楽に終わりそうだ。
一応、夫婦の旦那の方からは別件の依頼がある為、片付けながら、それらを探していく。
姪っ子は、ホステスでもやっていたのだろう、一見煌びやかなワンピースが、狭いクローゼットに押し込まれていた。
装飾品も、同じクローゼットに放り込まれていた紙袋の中で見つけたが、すぐに安物とわかる品ばかりだ。
金目の物ではない、残念だ。
リビングと、キッチン。姪っ子の部屋を片付けたが、めぼしい物はなかった。
諦めながら、最後に息子の部屋に入った。
机の上は綺麗に片付いており、受験に使われたであろう参考書とノートが机上の隅に並んでいた。
少し建て付けの悪い扉をそのまま開けようとした時、何かが扉の下に挟まっているのに気付いた。
それは、御守りだった。
あぁ、これが挟まっていたから、扉がスムーズに開かなかったのか。
そう思って御守りを手にした時、違和感が手の平に伝わった。
何やら普通の御守りに比べて、厚いのだ。
そして、『御守り』と書かれている表の面の、左下に『再』、右下に『録』とある。
…これは、もしかすると…
俺は、『再』のところを指で強めに押した。
***
少年のものだろう、若い声が部屋に響く。
「母さん、今日までありがとう。無事に高校に受かったのも…ガタガタッ…母さん?…おじさん!!何してんだよ!!やめろ!………うわあっやめ…母さん!やめ…………うわ、うわあああ!」
「恨むなら、この売女を恨め!」
「やめて!あんたの息子よ!!!!!きゃああああああああ」
ブツ
それは、御守りの形をした、ボイスレコーダーだった。
普通は、励ましや感謝の気持ちを入れるものだろう。
最近の商品は、随分と高機能で幅広く音声を拾うらしい。
警察は、犯行現場がリビングだった為、息子の部屋に御守りが転がっていても、不思議に思わなかったのだろう。
若しくは、犯人は、余程上手く無理心中に見せかける術を知っていたのかもしれない。
警察庁に務める、夫婦の旦那ならあり得た。
***
俺は、証拠の御守りを、目の前のローテーブルにぽいと投げた。
「これしか出ませんでした」
殺された姪っ子の、血の繋がらない叔父は、ニタリと笑って「ご苦労さん」と言いながら、それをポケットに入れた。
俺のもう一つの依頼は、あの部屋で、もし殺人の証拠が出たら、それを速やかに引き渡す事。
勿論、口止め料も含めて、法外な金額を貰っている。
しかも、俺の上の息子が警察官採用試験に受かり、これから警察学校に行く事も調べられており、これでは人質を取られた気分になる。
まさか、あんたが犯人だったなんて、とは間違っても言えない。
俺は、なんでも屋。
こういう事を胸にしまうのも、日常茶飯事である。