夢喰いバク
こんばんは、あたしバク。
そう、悪夢をむしゃむしゃモリモリ食べちゃうあのバクよ!
悪夢を見た後、「夢をバグにあげます」って言ってくれれば二度と同じ悪夢を見ないですむのよ。
けどね、もうそんな事を知っている人も少なくなって、あたし達は餓死寸前!!
だから、最近はあたし達が悪夢か悪夢じゃないかを判断して、勝手に食べちゃってマス。
人間にはいくら感謝されても良いと思うんだけど、悪夢を見ている最中にあたし達が食べちゃうもんだから、悪夢を見た事実自体、人間はぼんやりとした記憶しかないの。
だから益々感謝されにくくなってますー……ああ、悲しいわ。
まぁ、たまーに間違えて良い夢も食べちゃうから、記憶が曖昧になるのも悪いことばかりじゃないんだけど。
え?たまによ、たまに。
今日もあたしは、夜の星空の中、プカプカ浮かびながら悪夢を探してます。
お食事♪お食事♪
人間の見る夢は、あたし達から見ると、ミニシアターみたいに見えるのよ。
夢がスクリーンに映されてる感じ。
けど、人間の近くに寄らなきゃ見えないから、それが面倒。
あーあ、夢を捧げてくれる時は、レストランみたいに目の前に悪夢が現れるから、凄く楽なのに。
あたしは手近な高層マンションの天井から、すいと体をお部屋にくぐらせた。
目の前にリビングが広がる。
あら、このお家広い。高そう。
え?悪夢を沢山食べてるから、意外と人間の生活とかには詳しくなるのよ、必然的にね!!
人間って、ご飯食べるのに硬貨が無いと駄目なのよね、不便よねー。可哀想。
え?あたし達が餓死寸前だったのは昔の事よ!
勝手に夢を食べる様になってからは、そりゃもう豊かな食生活を送っているわ。
こんな話しながらも、あたしは寝室に着いたよ。
あたしってば器用。
あら、夫婦?恋人?
とにかく、男女のカップルがいるわ。
わあ!!丁度美味しそうな悪夢を見てるぅ♪
一件目から当たりなんて、今日はツイテマス。
うふふ。
夢が終わる前に、早速
いっただっきまーす!!!
……悪夢を見ていたのは、女の方ね。
なんだか、男に馬乗りになって、包丁で滅多差しにしてるわ。
あらまぁ、よく飛ぶ血飛沫ですこと。
この男、顔もぐっしゃぐしゃにされてるけど、よく見ると隣に寝てる男じゃない?
あらら、女とは対照的に、男はまた幸せそうな夢を見ているわねぇ。
女が、沢山のご馳走様を作って、二人で食卓を囲む夢。
男の前では女が、頬杖つきながらニコニコ笑ってる。
あたしには食卓とか関係ないけどね、人間が人と楽しく食事をするのが幸せだって事くらい知ってるのよ?えへん。
男は悪夢じゃないから、お食事出来ないわね。
ひとまずご馳走様でした!
ああ、悪夢を食べてあげたのに感謝されないって、寂しいわー。
***
翌日。
女の同僚が、彼女に声を掛けた。
「あれ?なんか嫌な事でもあった?」
「ううん…昨日さぁ、すごーく幸せな夢を見ていた気がするんだけど…どうも思い出せないんだよねぇ…」
「あ、それヤダよねー!わかる、思い出せないとなんかモヤモヤするし!!」
また同時期。
男の同僚が、彼に声を掛けた。
「おい、なんか浮かない顔してるな?」
「ああ…悪夢を見た」
「…また、奥さん絡みか?」
「そうだ。俺、何時かあいつに殺されるんじゃないかって最近マジで思う」
「お前も大変だな…。奥さん、今精神科にかかってるんだろ?お前も病むなよ?」
「ああ…まさか、1回の浮気だけでこんなんなるとは思わなかった…自業自得とは言え……」
「悪夢って、どんな夢なんだ?」
「毒入りの料理をたらふく食わされる夢だよ…あいつは目の前で頬杖ついて、ニヤニヤしてるんだ」