音
キー… キー…
あぁ、公園で誰かがブランコに乗っている。
…いや、私は目を閉じて横になって、この音を聞いているんだ。
掌には、畳の感触。
室内に違いないから、ブランコではない。
キー… キー…
それじゃあ、扉が開閉した音か。
だってホラ、私の顔を爽やかな風が撫でている。
けど待って。
我が家は、築80年の純和風な家屋だ。
扉は全て、引き戸。
扉の開閉の音な訳でもない。
キー… キー…
じゃあ、物干しにぶら下げたハンガーが軋む音か。
今日の天気は、晴れだった。
風もあるし、もうそろそろ乾いたに違いない。
早く、取り込まなきゃ…
それにしても、なかなか瞼が動かない。
キー… キー…
あれ、私はいつの間に寝ていたの?
そもそも、今は何時?
何でこんなに瞼が重いの?
頭も、働かない。
冷静になれば成る程、考える事を放棄したがる。
キー… キー…
目が開かない。
このままもう少し、眠っていようか。
そしたら、この音も消えるかもしれない。
だって私、洗濯物は直接物干しに干す派だもん。
こんな音、するわけ無い。
もう一度眠れば、実は夢だったんだよって、なるかもしれない。
…私は、結局嫌がる瞼を無理やり開けた。
***
そこに広がる光景は、私が眠る…いや、気を失う前と変わりはなかった。
キー… キー…
築80年の古民家を支える立派な梁。
梁から吊された紐。
紐は首を支点に、身体を床から持ち上げている。
昔ながらの家の作りは、風通しが良くて。
その風は、吊された身体をゆっくりと揺らす。
キー…
キー…
キー…
…お父さん。
何で、こんな音を貴方が出すの?