網棚
目の前の席が空いたので、座った。
帰りの電車の中。
まわりはくたびれた顔をしたサラリーマンが無表情に立つ。
俺の最寄り駅は、まだまだ先だ。
かなり混んでいる車内で、殆ど立たずに座れるなんて、今日はついている。
俺は、ゆっくり目を瞑り、少しの休息を取ることにした。
今日の夕飯や、帰宅してから見るテレビ番組を考えながら、電車の揺れを心地良く感じる。
だがしばらくすると、人の髪が、俺の頭頂部に当たった気がした。
前に立つ人が、眠気に負けてこちらに倒れて来たのかと思い、顔をあげた。
……が、そこには誰もいなかった。
車内はまだまだ混んでいるが、私の左右に座るサラリーマンの前には人が立っていたが、私の前にはいなかった。
気のせいか。
私は、また目を瞑った。
私の仕事は一日中パソコンと向かい合うので、目の奥が慢性的に疲れている。
電車で座った時や、タバコを吸う時、コーヒーを飲む時なんかに目を瞑るのが、ほぼ癖になっている。
……
また、頭を髪の毛の様な物で撫でられる。
少しイライラして顔をあげるが……やはり、誰もいない。
左右のサラリーマンを横目で見ると、一人は鼾をかいて眠っており、もう一人はスマホを弄るのに夢中だ。
……?
おかしいなぁ
隣のサラリーマンが、体勢を崩して一瞬だけこっちに倒れてきたのか?
今度は、目を瞑らずに、正面を向いて座っていた。
何となく、原因が気になったからだ。
まさか、嫌がらせ……等ではないだろうが。
けれども、左右のサラリーマンも、サラリーマンの前に立つ人達も、何のアクションもなかった。
そうして、左右のサラリーマンはその先何駅か停まっても降りる事がなかったが、立つ人は疎らになってきた。
向かいに座るサラリーマンが見える頃、私は正面にある窓ガラスに気付いた。
正確には
窓ガラスに映る
真っ黒くて長い髪に気付いた。
目線が知らず、上にあがる。
この先を見てはいけない。
頭にアラームが鳴り響く。
網棚の上には
青白い顔の生首
生首から伸びた髪の毛先は
丁度私の頭を撫でていた