侵入者
母が殺された。
あたしは、それを兄弟から伝え聞いた。
愕然とした。
あんなに賢く、強い母が何故。
母は、あたし達の住む山に
勝手に侵入してきた奴らに殺されたらしい。
奴らは、銃を持っている。
何て野蛮な奴らなんだろう。
奴らは、母を殺した後、
あたし達の山をどんどん侵食していった。
兄弟達に、直談判したい、と言うと、
その前に殺されるからやめておけ、と言われた。
仕方がないので、
侵入者が入らない山の奥に引っ込んだ。
あたしが大切にしていた
魚が豊富にとれた川も、
美味しいキノコの穴場も、
筍が沢山取れるスポットも、
様々な種類の山菜が生える場所も、
皆みんな、侵入者に奪われた。
これじゃあたし、冬を越せないよ。
兄弟達も、皆生きてくのに必死で、
分け与えるどころか、縄張り意識を高める一方だ。
侵入者さえ来なければ、ここまで飢える事なかったのに。
あたしは、決意した。
どうせ死ぬなら、飢えじゃなくて。
侵入者と戦って……食糧を手に入れる為に、死にたい。
その方が、生き残る可能性は大だ。
リーン……
リーン……
侵入者の合図が、近くで聞こえる。
あたしは、母譲りの巨体を動かし、
人間の匂いを嗅ぎながら、風下から近付いた……