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霊が視える男

俺は友人である道隆の隣にいる女性……いやどちらかというと女の子、に向かって頭を下げていた。



「お願いします、どうかこの能力を無くして下さい」



俺は霊が視える。



しかもはっきり視える。



けど有難い事に、完全に普通の人間みたいに視える。



だから、怖いと感じた事はない。



けど有難くない事に、よく霊を生きている人間と勘違いする。



「……昔から不思議君と言われていたお前が、霊が見える体質だとはなぁ……」


「不思議君と言い出したのはお前だろーが、道隆」



如何せん、エレベーターで人が乗ってきたから少しずれれば、その場に居合わせた女性に「二人きりなのに近づきすぎです」と不信感を顕わにされたり


爺さんのお通夜に行けば、本人が親族に混ざって泣いてるのを見て複雑な心境になったり


横断歩道で人を避ければ、後ろから来た自転車に乗ったオバチャンに「何でいきなり横にずれるの!真っ直ぐ歩きなさい!」って怒られたり


あの子可愛いなーって女子高生見ていたら、「お前何で何もない壁見てニヤニヤしてんの?」と友人に気味悪がられたり




……とにかく、直接的な被害はなくても、他人からの俺への評価にはしっかり害を与えてくれたと思う。


とにかく、そんな訳で。

常々、こんな力なきゃ良いのになーって、思っていた。




「道隆から聞いたんですが、こういう力を無くす事が出来ると」



俺の言葉を聞いて、女の子……さいどさん?は道隆をジト目で見た。

辛気臭い表情に磨きがかかる。



「まぁ……出来なくは、ないですが。

正確に言うと、無くすというより、私が力を吸収するんです。

だから、一度吸収したら、返して下さい、と言われても返せません」


「絶対に言いませんから、お願いします」


さいどさん?は、はぁ、と溜め息をついて言った。


「皆さん、最初はそうおっしゃるんです。

けれど、実際力が無くなった時に、気付く事も多いんです。


特に、生まれた時からずーっとその力を持って生活している方は、余りにその生活に慣れすぎていて、失った時の事を想像出来ていません。


だから……そうですね、一ヶ月間、考え直してくれませんか?

それでも気が変わらなければ……こちらもご依頼を承る方向で動きたいと思います」



さいどさん?は、慎重だった。




***




「なぁ、お前、何で急にその力無くそうと思ったんだ?」



道隆が聞いてきた。

さいどさん?が気を利かせ、仕事中の道隆に、俺を駅まで送るよう言ってくれた。

その最中での会話だ。


「ん?前々から思ってたよ。ただ、無くす事が出来るなんて知らなかっただけだ」



俺のこの能力は、昨日まで俺の家族しか知らなかった。


昔、俺が気味悪がられて、クラスメートから総スカン食らいそうになった時。

わざと不思議君という仇名を付け、親しみやすくしてくれた道隆にも、この話はした事がなかった。


けど、その道隆が、まさか除霊師のサポートみたいな仕事に就くとは思わなかった。



「……ならいいが。けどお前、大丈夫か?」


「ん?この前、会社をクビになった事か?

……あれも結局、俺のこの能力のせいでもあるからさ」


「……」


「まぁ、それが決め手かな?

なんだかさ、このままじゃ、まともな社会人やれない気がして」



アハハと笑って、誤魔化した。




***




「ただいま~」



「お帰りなさい!!お兄ちゃん!!」


小学生の妹が、じゃれついてくる。


「お帰りなさい、ホラ、お兄ちゃんから離れなさい。手すら洗えなくて困ってるわよ?」


「おぅ、お帰り」


「パパ、お兄ちゃん、トランプやろうよ!!」


「おい、にーちゃんは俺とゲームするんだ!!」


我が家は、両親と中学生の弟、妹の5人家族だ。

実は俺だけ父親が違うが、下の二人と同じ様に可愛がって貰った記憶しかない。


俺の前の父親は、俺のこの能力が分かると共に、姿を消した。



家族仲が本当に良くて、あった筈の俺の反抗期はさっさと撤退した。


弟に至っては、反抗期なんぞ来る様子が全くない。



両親に恩返ししたくて入った一流企業は、先日クビになった。

まぁ、俺の行いのせいだから、それは仕方ない。

誰よりも、両親に知られたくなくて、最近は以前の出勤時間に家を出、ハローワークに通う毎日だ。



幾ら仲が良くても、そろそろ独り立ちしなくちゃいけない、と思う。


だから、今回除霊師に依頼したんだ。




***




「……本当に、いいんですか?」



「はい。お願いします」



一ヶ月後。

俺はまた、さいどさん?と会っていた。



やはり、気持ちは変わらなかった。



これから、色々と不便な事もあると思う。

霊が視えなくなる事で、孤独に苛まれる事もある。



けど、それがいいんだ。

それが、普通なんだから……



人の手を借りてでも、普通、にして貰えないと……






俺は先に進めない




***




「ただいま~」



勿論、返事はない。



それもその筈だ。





俺の家族は、俺を残して、交通事故で皆死んだんだから。



「……っ」





俺は、家族が死んだ後一度も、泣けなかった。


家に帰れば、家族が待っているからだ。

何事もなかったかの様に。



再度失うかもしれない恐怖で、通夜と告別式を終えた日から、一歩も外に出られなかった。


そして会社を欠勤し続け、クビになった。




「母さん………父さん………………」



遅れてきた虚無感が、やっと心を埋め尽くす。



俺は、失った者達に、やっと涙を流せる。



「………うっ…………ぁ」





今まで、ありがとう、ありがとう、ありがとう



一人になっても、立派に生きてく



いつか、素敵な女性を見つけて、母さん父さんみたいな夫婦になるよ


そして、弟妹みたいな可愛い子供が産まれればいい




「………………っ……………」












一ヶ月前、道隆が「大丈夫か?」って聞いたのは、家族を亡くした事の方だと、気付いていた。


けどその時、俺は家族が家にいるのを視ていたから、本当に大丈夫だったんだ………

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