居場所
「ただいまー!お母さん!」
『お帰りなさい』
「これから友達と野球しに行ってきまーす♪」
『ちょっと、宿題は?』
「帰ってきたらやるって!」
『そう?気をつけて行ってらっしゃい』
「ただいまー!!」
『お帰りなさい、野球は楽しかった?』
「ううん、負けちゃったー」
『そう、残念だったわね』
「すっごくお腹空いたよー!」
『あら…お父さん、おやつとか用意してくれてるの?』
「ううん…おやつっていうか…ご飯もお金だけ貰って、自分で買うんだ…」
『………そう…』
「ねぇお母さん、いつまでそこにいるの?早く家に帰ってきてよ」
『ごめんね、お母さんもお家に帰りたいんだけど…』
「……」
『…ごめんね…』
「…うん………じゃあねそろそろお母さん、また明日」
『そうね、また明日』
***
「ねぇお母さん、この前お父さんがしゅっちょ?…お出掛けする時は、教えてって言ってたでしょ?」
『出張ね。うん、もうすぐ行くって?』
「明日からだって」
くしゅんっ
『あら、大丈夫?風邪ひかないようにね?』
「うん。ずっと外にいると、流石に寒いや。お母さんのいるとこは、寒くないの?」
『寒いけど、お母さんは大丈夫よ。早くお家の中に入って、あたたまりなさい。』
「はーい!…ねぇお母さん、どうしてお父さんには、こうしてお母さんとおしゃべりしてること秘密なの?」
『うーん…お父さんがね、貴方を嫌うといけないから』
「お母さんとおしゃべりしてると、お父さんが嫌うの?お父さんだって、前まではお母さんとおしゃべりしてたじゃない!そんなの変だよ!」
『ふふふ、そうね、変ね。…ほら、そろそろお家に入りなさい、寒いでしょう?』
「うん、寒いーっ!じゃあ、また明日ね、お母さん」
『ええ、また明日』
***
『お帰りなさい。お父さん、もう出張に行ったの?』
「うん、もういないよ」
『お父さん…までいなくなったら、寂しいわよね』
「大丈夫だよ!僕一人でも!ゲーム沢山出来るし、見たいテレビも見れるし」
『貴方は本当に強くていい子ね…』
「あ、そう言えばお父さんが、しゅちょから帰って来たら、井戸を埋めるって言ってたよー」
『そう、やっぱりねぇ。…あのね、貴方に大事な御願いがあるのだけど』
「えっ!?何?みっしょんってやつ?」
『ふふふ、そう、大事なミッションよ』
「なぁにー?」
『お父さんにはナイショで、これから警察に行きなさい』
「うん、それで?」
『警察にね、この井戸を調べて貰うのよ』
「うわー!何だか難しそう…」
『ふふふ、難しいかな?だけど、貴方になら出来るわ!警察にはね、お母さんが、この井戸の中にいますって言えばいいの』
「ああ!そっかぁ!」
『それじゃあ、行ってらっしゃい…』
「行ってきまーす!」
少年に言われて井戸を捜査した警察は、首の骨を折って即死した少年の母親の遺体を発見した。
遺体は死後一週間が経過していたが、井戸への転落によるものとは思えない外傷あり。
その後警察は出張から戻った少年の父親を事情聴取し、父親による殺害と判明、逮捕に至る。