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触らぬ霊に祟りなし

私は、引っ越し荷物の段ボールを強引に開けながら、黙々と片付け作業をこなしていた。



眼鏡屋に勤めて5年。埼玉から神奈川の店舗に配属されたら、引っ越しするしかない。



神奈川という土地柄、恐らくご近所さんへの挨拶は省いても問題ない。

ましてや単身者用のアパートだ。



私はそのつもりだったのに、そんな私の性格を知っている田舎の母が、挨拶まわり用のタオルを新居に送りつけてきたのだ。



あまり社交的ではない私は引っ越し草々気が滅入ったが、嫌な事ほど後回しにすると、それで悩む時間は長くなる。



生活するのに必要な状況に部屋が落ち着いたら、さっさと挨拶まわりをしてしまおう。



そう思いながら、部屋を整えていった。




***




片付けが一段落して、台所でタバコを吸って一息ついた時だった。



隣の家で、物音がした。



時計を見ると、15時。

平日なのに、こんな時間にいるとなると、学生か。



私は、さっさと用事を済まそうと、母が送ってきたタオルを片手に、部屋を出た。



ピンポーン



……



ピンポーン



……



居留守を使われたのかな?



物騒な世の中だ。

知らない顔だから居留守を使うというのは私もよくやる。



よし、夜にまた来て、それでも出なかったらタオルを紙袋にいれてドアに引っ掛けておけばいいや。



直ぐにそう思い直して、他の部屋も回った。



私の部屋は201号室で、挨拶予定は202と101だけだ。



101号室では、可愛らしい女性が出てきて、挨拶は滞りなく済ませられた。



その後も片付けに精をだし、夕食を外で済ませると、お隣への挨拶まわりの時間が思ったより遅くなった。



けれども、20時。

まだ許される時間だろう。



私はアパート前で吸っていたタバコを消した。

その時、フと202号室には今住人がいるのかな、と思い見上げてみると…電気が消えている。



ところが、見てしまったのだ。



閉められたカーテンの隙間から、こちらを見下ろす女性の目を。





……





私には、直感でわかった。



あれは、202号室の住人ではなく、202号室に憑くものだと。




それがわかった瞬間、私は202号室を訪問しないつもりだった。



ところが、アパート前で呆然としていた私を訝しげに見ながら抜かした男性が、202号室の部屋に入ろうとしていたのだ。




私は、ひょろりとした背の高いその男性に思わず声を掛けていた。




隣に越してきました、よろしくお願いいたします。

今、挨拶まわりのタオルをお渡ししたいので、少し待っていて貰えませんか。



男性は少し驚いた様だったが、私が鍵を使って201号室に入っていくのを見て、安心した様だった。



202号室の玄関前で、タオルを渡した。



実は身長が150センチない私には、おもいっきり男性を見上げる形になり、男性の声は天から降ってくる様だった。



わざわざすみません。

こちらこそよろしくお願いいたします。



多分、そんな事を言われた。



けれども私は、真っ暗な部屋の奥からの刺すような視線が気になって、正確に会話を覚えていない。




***




触らぬ霊に祟りなし




私は、お隣さんの危機に気付いていたが、あえて気付かないフリをした。



それ以降、お隣さんと会うこともなく、3ヶ月が経過した頃…



俄に、警察がお隣に出入りし、騒がしくなった。



聞けば、隣の男性が不審死を遂げたらしい。



きっと、あの女の霊に連れていかれたのだろう。



警察とは当たり障りのない会話をして、更に3ヶ月が経過し…



私が何時ものように、出勤しようとすると、お隣に引っ越し業者が出入りをしていた。



「お世話になりまーす!荷物の出し入れさせて頂いていますので、ご迷惑お掛けしますがよろしくお願いいたします!」


引っ越し業者のお兄さんは、私に爽やかな挨拶をしてきた。



すると、中から少し太めの女性が出てきて、私に挨拶をした。



どうも、今日から隣に越してきました。

これからお世話になります。



私は、女性と挨拶を交わしながら、202号室の中を久々に覗き見していた。



あの、変な霊の気配はもう全くない。



亡くなった男性には忠告もせずに悪いことをしたかもしれないが、やはり霊と関わらずにいて良かった。






…と、そう思った時。

202号室の新しい住人が言った。



背の高い男性とお住まいですよね?

下見に来た時、窓から覗かれているのがたまたま見えて。







その日、私が部屋に帰った時。



天から声が降ってきた。






『…なんで助けてくれなかったんだ…』


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