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人肉嗜食の考察

私は、文化人類学を専攻する学者である。



最近は、文化人類学の中でも人肉嗜食もしくはカニバリズムと呼ばれる分野に興味が出てきた。



私が学者として調査するのは勿論、社会的行為としての人肉嗜食だ。



ただ、研究していくうちに、個人的興味として気になる事があった。



それは、人肉嗜食の文化を持たない「正常な」人間が緊急時下でなくカニバリズムを長期に渡り行った際、その後人肉嗜食という行為をどう受け止めるのか、という事だった。



緊急時下での人肉食は、カニバリズムを正当化する。

また、世の中には「異常な」殺人者が度々カニバリズムを行う事がある。



それはどうでもいい。



正常な人間が、カニバリズムという文化に触れた、その反応が知りたかった。




この興味は、一旦私の中でわきはじめると、何時までも冷めることがなかった。



私は勿論、人肉なんか食したくない。多少変人である自負はあるが、残念ながらそこまで人間崩壊していない。



人肉と言って、喜んで食べるような人間は探せば見つかるかもしれないが、その人間は既に「異常」という括りに入ってしまう。



更に、私の属する文化では人肉を食べることが出来ない。そんな事をしたら、罪に問われてしまう。



…やはり、騙すしかない。



普通の人間に、普通の肉を食べさせて、それを人肉だったと思わせる。



刷り込みだ。



本気で人肉を食べたと思わせる事が出来たら、その後の反応が生で見ることができる。



下手したら精神崩壊しかねない為、出来れば、精神力が強い人間を選ぼう。




そんな頃、私は自分に弟子入りしたいと申し出る人間と知り合いになった。




アルバートと名乗る男は、至って普通の男だった。



よし、こいつにしよう。



私はアルバートを騙す事にした。



私の執事でもあり料理人でもあるジェフリーにも協力して貰った。



そして見事に、一ヶ月の間、アルバートに人肉を食べたと思わせたのだ。



その嘘を信じこんだアルバートは、最初一時間程、吐き続けた。



次に3日程、水しか飲めなかった。



それから一週間、野菜を口に出来るようになった。



私は、精神的にダメージを負ったアルバートに、社会的カニバリズムの話を毎日説いた。



さて、彼はカニバリズムを受け入れるのだろうか?




アルバートが精神的に落ち着いて、カニバリズムという文化に触れた彼がどういう結論を出すのかを見届けたら、私は彼にからくりを話すつもりである―――




***




俺達警察が確認したビデオテープは、そこで終わっていた。



ビデオテープは、最近行方不明になったエドという学者の書斎で、ビデオデッキに入ったままであるのを、捜査員が見付けたのだ。



俺達は既に、この屋敷のキッチンで、人間が捌かれたと思われる痕跡を見つけていた。



だが、髪の毛や骨や爪等は見つかったが、頭部(顔)など、被害者を特定する部位はまだ見つかっていない。



「けど、おかしいですね?このビデオテープでは、人肉嗜食をやらせだと言っているのに…何故本当に、人を調理した痕があるんでしょう?」



部下が不思議そうに聞いてきた。



「嘘から出たまことって言葉知ってるか?


アルバートって男、エドがからくりを話す前に、エドを食べたのかもしれない」





緊急時下で、人肉食をした人間が、救助された後も人肉を食べた話は有名だ。

緊急時下ならカニバリズムに含まれないが、救助された後なら立派なカニバリズムだ。



「人肉は、麻薬みたいに依存性があるのかもしれないなぁ」



そしてきっと、タブーというスパイスが効いて、美味なんだろう。



そう思ったが、小心者の部下には言わなかった。


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