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人選

私は、とある崇高な学者のもとを訪問した。



その学者はもともと貴族の出で、立派な領地と屋敷を所持し、働かなくとも金はあったが、趣味が高じて学者の道へと進んだらしい。



その為学者は変わり者と言われていたが、私には関係なかった。



学者の専攻は文化人類学であり、彼の論文を読むたびに、私は彼の虜になっていた。



私の憧れは、やがて学者への弟子入り希望となり、何度目かのアタックの後、やっと学者本人から、屋敷にお呼ばれしたのである。



いってみれば、これは面接。

学者の助手となれるか否か、今この時にかかっている。



「遠路はるばるようこそ、アルバート殿」



私は、ガチガチに緊張しながら学者のエドが差し出した右手を、両手でしっかりと握った。



「エド先生、本日はお招き頂きまして、本当にありがとうございます…!!お会いできて、感激です」



エドは、画家のダリの様に、彫りが深く細面で、ピンと手入れされた髭が特徴の男だった。



「ははは、そう固くならないで下さいよ。我が家だと思って、寛いで下さい。


ジェフリー、アルバート殿のお荷物を部屋へお運びして。


アルバート殿、こちらはジェフリー。我が家の執事でもあり、料理人でもあり、庭師でもあり…つまり、何でも屋の使用人です」



ジェフリーと呼ばれた屈強そうな大男は、ペコリと私に頭を下げて、荷物を軽々と運んで行った。



私がエドの屋敷に着いたのは、丁度昼過ぎだった。



お茶にしましょう、と言われたが、私はお茶に口をつけることなく、エドの論文がどれほど素晴らしいものか、自分に影響を与えたか、そしてエドのもとでどれだけ学びたいと願っているかを熱く語った。



「ははは、アルバート殿にそこまで言ってもらえるとは、恐縮ですな」



エドはそう言ったものの、弟子にする、とは言ってくれなかった。

けれども。



「では…アルバート殿、これから一ヶ月ほどこの屋敷で私と寝食をともにして下さいよ。そして、その間に私から様々な事を学んでください」



と、有り難い申し出をしてくれたのだ。

チャンス以外の何物でもないそれに、私は飛びついた。

そして、エドはこう締め括った。



「では…夜も長い。これから毎日、アルバート殿を一ヶ月間楽しませてくれる相手をどうぞ選んで下さい」




エドが指をパチン、と鳴らすと、ジェフリーが人を引き連れてやってきた。



老若男女だ。



若い女、若い男、少年少女、そして中年の男と女。



私は、一瞬迷ったが、少年を指名した。



エドはニヤリと笑って「アルバート殿はお目が高い」と言い、お茶会はお開きとなった。





私は、普通に若い女が好きだ。



けれども、私はエドが男色家と知っており、とりわけ少年を愛する事も知っていた。



心理学的に、お互い共通性がある方が、好感度がアップするのは当たり前。



ただ、私には少年と愛し合う趣味はない。



ジェフリーに何か食べられない食材はないかと聞かれた時も、少年が訪ねてきたらどうしたらいいのか、という方にばかり頭がいって、何と答えたか記憶になかった。




ジェフリーは、大柄な体に似合わず、繊細な料理を披露した。



野菜、肉、魚が見事に調和した料理を全て美味しく頂き、エドと文化人類学の論議で盛り上がり、有意義な夜を過ごした。



困るのは、少年が訪ねてくる夜中であるが、行為をしなければいいだけだと腹を括った。



…が、その日、少年が訪ねてくる事はなかった。




翌日からエドについて、文化人類学を一緒に研究させて貰った。



私は、エドが現地に入り込んで資料をかき集めていくのを、ひたすら手伝った。



驚く事に、何故かジェフリーも一緒についてきては、エドの身の回りの事と料理を取り仕切っていた。



私は一ヶ月の間、大好きな研究と、エドとの意義ある交流と、ジェフリーの美味しい料理に満たされた、幸せな日々を送った。



そしてその一ヶ月の間、幸いなことに、少年が私の部屋を訪ねてくる事は一度もなかった。




一ヶ月経ち、私はエドに弟子入りを改めて希望した。



最初に比べて情もうつり、無下にはしないだろうと、私は考えていた。



エドは口を開いた。



「私は、文化人類学の中でも、とりわけ興味がある分野があってね。

君が協力してくれるなら、これからも私と共に研究を行ってくれたまえ。」



「!!勿論ですとも!!先生は、これから何を専攻なさろうとされているのですか?」



「人肉嗜食だよ」



そして、更に続けて言った。









「君が選んだ少年は、毎日君の舌を楽しませてくれたかい?」



…私の舌に、ジェフリーの調理した肉料理の味が、広がった気がした…


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