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実験台

私は、目の前に並ぶ裸体達を見て、にやける表情を抑える事が出来なかった。



私の隣には、若くして博士号を取得する、壮年の医者が起立している。



「どうですかね?私の揃えた逸材は」



医者が私に問い掛けた。



「最高よ。私はこれで、確実に蘇る」



我慢しきれなくなって、ケラケラと笑い声をあげてしまった。




私は、金持ちだ。



なんでも欲しいものは手に入ったし、思い通りに人生を歩んできた。



けれども、私の体に巣食う病魔だけは、薬で進行を止めるのが精一杯で、逃げ切る事が出来なかった。



私は絶望する前に、世界中の医者という医者を調べあげさせて、この病魔を何とか出来る可能性を秘めた医者にたどり着いた。




医者が何故こんな事を研究しているのかは知らないが、それは芸術にも似たものだ。




とある私も知っている貴族の男が、馬から落ちて、半身不随になった。



そう聞いていたのに…私が次に会った時、彼は元気に歩いていたのだ。



聞けば、世界一の腕を持つ闇医者が、神経という神経全てを繋ぎあわせて、彼を歩ける様にしたという。



しかも医者にしてみれば、そんな事はごく簡単な事らしく…足を故障した陸上選手に、下肢を他人の物と変えることによりもっと早くなる、と進言して、実際にその通りにしたらしい。




そんな眉唾物の話でも、藁をすがる想いでその医者を探しだしたところ、幸運の女神は私に微笑んだのだ。




私が、病魔に侵されたこの体から引っ越しをしたいと言う事でその医者とコンタクトを取ると、医者は喜んで言った。



「何と、幸運の女神は私に微笑んだ…!今迄、一番研究したかった脳の移植だけは誰もやりたがらなかったんです」



と。



医者と、私の利害は一致した。



医者は、自分の研究の成果をあげたかった。体のツギハギには成功したが、最終的には脳のツギハギを行いたかった。



私は、新しい体が欲しかった。どうせ、余命いくばくもないのなら、駄目元でも試したかった。





医者は、私の体を隅々まで調べ、私の脳に適合する体を用意した。



それが、今目の前に並ぶ裸体達である。



何故「達」なのかと言うと、医者は最高傑作をつくると意気込んでおり…



最高の容姿

最高のプロポーション

最高の手

最高の皮膚

最高の内臓



これらを持ち合わせた人間をツギハギにする事で



最高の身体




を作成。最後に私の脳を移植するからである。




私が実際に並ぶ裸体を見て、興奮するのは無理もない事だった。





そして、私は深い眠りから醒めるように…目を開けた。



目の前に、医者の顔。



その笑顔から、手術の成功が想像できた。



「気分はどうですかね?」



医者が尋ねる。



「最高よ」



私達は、並んだ裸体を見た時と同じやり取りをして微笑みを交わした。



「ゆっくり、手を動かして下さい」



私が右手を動かすと、ジャラ…という音と共に視界の右端に美しい手があらわれた。



「あ、すみません、脳の指示が正常確認出来るまでは拘束しています」



ニコニコと、医者は言う。



私は生まれてこの方、こんな失礼な扱いを受けた事はない。



初めて受けた屈辱が許せず、私は医者を処分する事に決めた。



勿論今はまだ、そんな素振りは見せないけど。




医者が言うままに、続けて左手、右足、左足、上半身を起こしたり、下半身を動かしたりした。



両手両足が手錠で拘束されていて邪魔だったが、完璧に動いた。




渡された手鏡を確認すると…美しい女性がそこにはいた。



まだ縫合跡がまだ全体的に目立つが、美しいシワひとつない手。真っ白な皮膚の色。均整のとれたプロポーション。




私の、新しい体。



80歳の私が新しく生まれ変わったのは、35歳位にしか見えなかった。




もっと若くして貰っても良かったが……まぁまぁ私が満足していると、医者は言った。



「本当に、感謝します。貴女のお陰で、私の実験はやっと終わりました」


私を実験台の様な言い方をした。

それも気に食わない。



「素晴らしい研究でしたわ。そう言えば、何故こんな研究をされましたの?」



「簡単な事です。妻を、助けたかったんですよ…


妻は、筋肉が萎縮していく病魔に侵されて、動けないんです。流石に、安全かどうかもわからないのに、妻の脳を移植する訳にはいきませんからね」



「あら、じゃあ次は奥様が?」



「ええ、必ず成功させます」



「この身体も素晴らしいけど…もうご用意されてるの?」



妻の為に、もっと良い条件の身体を用意しているかどうかが気になった。もしそっちの方が気に入ったら、大金払ってでも手に入れたい。








「はは…妻の身体は、目の前にありますよ」




そう言って、医者がニヤリと笑った時。



自分が本当に実験台だった事に気付いた。









…ジャラ、と手足の手錠が、音をたてて鳴った…



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