灰溶融
森の中、とはいえ既にラステンが木々を消してしまっているから、広い草原の上、といった方が適切かもしれないが、そこにラステンが巨大な身体を横たえていた。
腹の上に立っている俺は、剣を刺す構えをとる。
「ラステン、お前の抵抗もここまでだ。木のゴーレムは既に細分化された。そして木材も火が点かないようにしている。お前の体内に蓄積されている灰の量は、俺が切れば切るほど少なくなっていく」
ラステンは仰向けになりながらも、俺への戦意は衰えていないようだ。
自分の腹の上に乗っている俺に、怒りの視線を向けてくる。
「バカなっ、ボクが……ボクの兵隊たちがこんなにも簡単に討ち滅ぼされるとは……」
倒れたラステンの近くに、ルシルやピカトリスも集まってきた。
「ゼロはね、私の軍勢、十万と戦って勝利した勇者なんだからね」
「くっ、十万……。だが、その戦に参加しただけでは、強さなんか判らないだろ!」
ラステンが吠える。
「なに言ってんのよ。私が言うのも変な話だけど、ゼロは一人で魔王軍十万と戦って、それに勝利したのよ」
「なっ!? たった一人で!?」
ラステンの驚きにルシルは得意気にうなずく。
元はルシルの配下の兵たちを、俺が一人で倒したって話なんだがな。
「そんなバカな話があるかっ!」
ラステンが倒れたまま手足をばたつかせる。
「ルシル、ピカトリス。あんまり近付くと危ないぞ。まだこいつは腕も脚も動かせるんだからな」
「そうね、もうゼロが勝つって判っちゃっているから、今さら私たちがとやかく言う事もないよね」
「そう思うんなら退避してくれ。危なくて俺も攻撃ができない」
「はいはい、じゃあ後はお願いね」
「ああ」
ルシルは俺に戦いの結着を託すと、離れた場所へと移動していった。
ピカトリスもルシルにならって後退する。
「それで、だ」
俺はラステンの腹に剣先を向けたまま、いつでも刺せるように準備している。
「お前はどうする、ラステン。俺の強さはもう知っていると思うが?」
「ぐっ、ボクは、ボクは……」
そこまで言いかけたラステンの腹に俺は無慈悲にも剣を差し込む。
「なっ、なにを!?」
「もうお前に決めさせることはやめた。俺が勝手に駆除する。SSSランクスキル発動、地獄の骸爆……集点! 熱量よ、一点に集まれっ!!」
俺の差し込んだ剣、超覚醒剣グラディエイトは魔力を十分に帯びた剣だ。それがラステンの腹に突き刺さり、SSSランクの爆炎スキルを発動させる。
しかも、一点集中に絞っての発動だ。
「お、おおお!? おおおおお!!!」
ラステンが驚くのも無理はない。
超高温で熱せられた灰は、溶け出して塊を形成する。これは岩が溶けて溶岩になるようなもの。
俺の熱量でラステンの身体を構成する灰が溶け出しているのだ。
「な、なにっ!? そんなっ!」
「慌てても遅いぞ。この熱はあっという間に全身に伝わり、お前の灰を溶かし尽くす。その後に固まるのはもう光沢を持った岩だ」
「は、灰じゃあないのか!?」
「溶けてしまえば、もう灰じゃない。お前は木片すら取り込めなかった。それが溶けて固まった石ならなおさら取り込めやしないだろう」
「そそそ、そんなぁ!」
わめくラステン。徐々に溶け出していく身体。
「ひぃっ! やめっ、やめてっ! ボクは、ボクは……」
人造人間の身体が徐々に崩れ、溶けていく。
「さてと」
俺は剣を抜き、ラステンの首を切断する。
首とはいえ、俺の身長ほどもありそうな頭部だ。再構成すれば人間くらいの大きさに造り替える事はできるだろう。
「意識をつかさどっている頭脳だけは助けてやる」
俺の意図通り、ラステンは残った頭部を再構成させ、人間の姿へと変化していった。
若干、というより、かなり小さめの身体になってしまって、俺の腰程度の背丈になっていたが。