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更に生み出すかりそめの命

 今まで巨大な敵とは何度も対峙してきた。森の木々よりも高いくらいの大きさにまで膨張したラステンは確かに大きい。

 俺だって見上げなければならない。


「だがっ、だからといって俺は全てに勝ってきた!」


 俺の振り抜いた剣がラステンの左足を斬り割く。物を切っている感触と重さはある。


「手応えはあったが……」


 剣がラステンの左足を通過するが、俺の予想していた通り。


「灰……」


 切った左足の先は灰となって消えるが、その灰をラステンが吸収して新しい左足を作りだした。


「ゼロ、やっぱりこいつ再生力がすごすぎてきりがないよ!」

「散らしまくればどうにかなると思ったんだがなあ」


 森はまだ黒い雷で燃えている。そうなれば、灰もまた生成されるわけだ。


「ルシルの言うように、きりがないな」


 口ではそう言いながらも、俺はラステンの身体を剣で切り刻む。

 その間にもラステンは、拳を振り下ろし足を踏みならす。


「斬っても斬っても……」


 俺は魔力を込めて更に斬り刻む。

 今までは灰の中に剣を突き刺していたような感触だったが、魔力の注入量によっては反応が変わった。


「切り口が一瞬固まるような気がする……」


 切った瞬間だけだが、傷口が固まるような。すぐに灰で覆われたり、かさぶたのように剥がれ落ちたりするのだが。


「ええい、ボクの力をバカにして! 創造主様でもできなかったことを、ボクがやってみせるんだ!」


 ラステンの声が上の方から降ってくる。


「おい、ピカトリス。あんな事を言っているぞ」

「あたしにもできなかったこと……」

「そうだ。あいつはなにをしようとしているんだ?」

「えっ……もしかして! ダメよラステン! それはあたしだって危ないからやらなかったのに!!」


 ピカトリスの言葉を聞いて、逆にラステンが舞い上がってしまったようだ。


「やはり! 創造主様でさえ踏み出せなかった一歩を、ボクが今! やってみせる!!」


 高揚するラステンは、俺に足を斬られながらも大きな手で印を結び始める。


「さあ、森の木々よ、ボクの兵隊になれっ!!」


 今までとは違う黒い雨。黒い色の付いた水というよりは、今降ってきている雨はそれこそ墨を溶かしたようなどす黒い液体。

 悪意を凝縮させたような、深黒の雨だ。


「木々? 兵隊!?」


 ルシルの疑問に答えたのは、ピカトリスの方だった。


「あの子、道を踏み外したのよ」

「外道はお前も同じだろうがな、ピカトリス」

「違うのよゼロ君。あたしは無から有を造りだそうとして研究をしていたわ。でもあの子は違う」


 深黒の雨に打たれた木々が、ゆっくりとだがウネウネと動き出す。


「命をもてあそんでいる。既にある命に対して、かりそめの命を吹き込んでしまったのよ」


 木々が自分の根を地面から引き剥がした。


「樹木の精霊トレントか!?」

「違うのよゼロ君。これがトレントだったらどれだけよかったか……」

「精霊ではない? だとすると、木のゴーレムとか」

「ご明察。あの子は樹木を器として、ゴーレムを造ってしまったのよ」

「でも、それは素材を木にしたっていうだけで、ピカトリス、お前が泥人形ゴーレムを造っているのと同じじゃないのか?」


 ピカトリスは首を横に振る。


「それだったら器を動かす命令を埋め込めばいいだけ。元々木々だって命を宿している物。そこに無理矢理命の代わりになる物を押し付けようとしているのよ」

「そうすると、命の競合が生まれる……」


 ルシルとアリア、器の少女と魂たちのせめぎ合い。彼女たちは自分の意思があって、それぞれで住み分けていた。

 だが、今の木々とラステンの押し付けられた命では。


「暴走……」


 目の前の木々が、動物のように動いて俺を攻撃する。

 もしかしたら攻撃の意思すらないのかもしれない。闇雲に俺に向かって枝を振るい、根を叩き付けていた。


「トレントですらない、木のゴーレムか……」


 命をもてあそばれた哀れな存在が、無言のまま俺たちに襲いかかる。

 それを不敵な笑みで、文字通り高みの見物を決め込んでいるラステンがいた。

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