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自給自足のホムンクルス

 ラステンは黒い雲を作りだし、辺りに広げた。


「ボクはね、今までのボクじゃないんだ」


 ラステンは自分に語りかけるようにつぶやくと、高々と手を上げる。

 黒い雲が更に黒さを増し、辺りの光が途絶えてしまう。

 深闇しんやみとは言わないまでも、夜のように暗くなってしまった。


「ゼロ、さっきあいつを斬ったよね?」


 ルシルは俺に尋ねるが、ルシルの視線はラステンに釘付けになったまま。


「ああ、斬った。木だけ伐るというよりは、動物を切らないようにした。だから奴は動物ではない……という事になるのだが」


 ピカトリスの造った人造人間ホムンクルスは、俺の魔力操作では動物扱いされなかったという事にもなる。

 ただ俺の認識が、奴を動物と認めていなかっただけなのかもしれないが。


 ラステンの生み出す闇が深く、濃くなる。


「さあ、この暗いイカヅチに打たれて、焼け散るがいいっ!!」


 ラステンの言葉と同時に暗い雲の中から黒い雷が辺りに落ちた。


「うっ、危ねぇな」


 俺たちは雷を避けて木々のなくなった森を飛び回る。

 直撃を受けそうな雷は剣で受け流す。

 魔力を帯びていれば、電撃をいなすこともできる。


「このまま電撃が続くと流石に辛いな」

「でもゼロはそこまで危機感を覚えていないでしょ?」

「う、確かに……」


 これくらいの攻撃なら、別段俺が困るようなものはない。避けることもできるし、かわすこともできる。


「攻撃としてはたいしたことがない……のだが」

「心配事でもあるの?」

「ああ。これで済まない気がする……」


 落ちる雷。

 その黒い雷が落ちる辺りで火災が起きる。電撃にさらされて木々が燃え始めたのだ。


「森が燃えているよゼロ!」

「ああ。だが奴の黒い雨も降り続いている。森が燃え尽くすという気もしないが……」


 俺は相手の出方をうかがう。このままでは森が焼け落ちるだけだが、それは俺にとって得に問題となることではない。それよりも俺がやったように、森が切り拓かれて視界がよくなるだけだ。


「周りの木を燃やしたところで……どうするつもりだ」


 木々は燃え、枝や葉も灰に変わっていく。


「森を燃やす……木が燃える……。あ!」


 俺は一つのことに気が付いた。


「こいつ、もしかすると……」

「ゼロ、なにか気付いたの!?」

「ああ。あいつは森を燃やしてそれだけでよしとしようという訳ではない」

「でも、森はかなり燃えちゃっているよ?」

「それが奴の戦術……」


 俺は電撃で燃えた森を見る。俺たちがいる辺りを中心にしているが、かなりの範囲で森が灰に変わっている。


「まさか、ゼロ……」

「ああ。ただ森を燃やすだけではない。ラステン……奴の狙いは……」


 俺たちが見守る中で、ラステンの身体が大きく膨らんでいく。


「まさか! ラステンは自分で作った灰を取り込んで……」

「森を燃やすのではなく、その灰を使うというのがラステンの真の目的だったんじゃないか!?」

「そ、そんな……」


 森の木々を燃やしてできた灰をラステンが取り込む。

 灰の量だけ身体が膨らみ、大きくなる。


「ゼロどうしよう! とんでもなくでっかくなっているよ!」


 ルシルの慌てる顔を無視して、俺はラステンの分析を続けた。


「だが……密度は薄まっているな」

「大きくなっているけど、風船みたいに膨らんでいるだけって事?」

「そのようだな。できればこのまま塊になってくれた方が俺としては攻撃できるんだがな」


 だが、ラステンは人造人間ホムンクルスの素材を自分で供給できるようだ。

 灰。

 森を焼いて作った灰を自分に取り込んで大きくなる。


「ほわぁ……」


 つい、俺は間抜けな声を上げてしまった。

 見ればラステンは、森を突き抜ける程の大きさにまで膨張している。


「くたばれ出来損ないの人間どもめっ!」


 ラステンが拳を繰り出す。

 地面に当たった時、爆発みたいに大地が弾ける。


「かなりの威力じゃなきゃ、こうはならないよな」

「そんな事言って、余裕で避けていたじゃない」


 そう言いながら、ラステンの拳を避けることはかなりの難易度だ。

 調子に乗ったラステンは、拳を振り下ろし、足を踏みならす。


「ちょっ、避けるのも大変なんだけど!」


 ルシルのぼやきが叫びになる。


「そんな事言ってもなぁ……」


 俺は剣を構えてラステンの左足に切りつけた。

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