よく見るためには
この曲がりくねった木々が織りなす森は、俺たちの行く手と視界をさえぎるものだ。
「ルシル、ピカトリス」
俺の呼びかけに二人が反応する。
「喫緊の課題としては、モココを見つけ出すことと、ラステンを探し出すこと。これに異論はないな?」
「そうね。ゼロの言う通り、これは早く片付けたいわ」
「モココは生きていたとしてかなり体力が削られているはず。早くピカトリスに治療させないとならない」
「ええ。それとラステンね」
「あいつは放っておけば次々と災厄を広めていく。この森の木々もやつのせいだろうからな」
「歪んだ木が?」
ルシルは曲がっている木の枝を手に取った。
「違うかピカトリス。これは黒の雨によるものだと思ったのだが」
「ゼロ君の推察が正しいわ。あたしもそう思うから。やったことはないけど」
「そう言いながら、興味津々のようだな」
「べ、別にそんな事はないわよ」
言葉とは裏腹に、ピカトリスは木の曲がっている部分を興味深そうに見ている。
「ともかくも、この状態はおかしい。そのためには一刻も早くモココとラステンを見つけなければ」
「でもさゼロ、今までずっと見つけられていなかったじゃない」
「まあな」
「どうするのよ」
「見てろよ」
俺は剣を抜いて魔力を溜めた。
超覚醒剣グラディエイトは魔力を帯びて淡い光を放つ。
「え、ゼロ……まさか」
ルシルの焦る顔をそのままにしておき、俺は魔力の方向性を形作る。
「曲がった木が邪魔をするのなら……木だけを……斬る!」
「木だけを!?」
「SSランクスキル発動、旋回横連斬! 動物は素通りするよう魔力の調整をかけて……周囲の木々だけを斬り割けっ!!」
俺が回転をしながら剣を振るうと、そこに発生した衝撃波が広がっていく。
衝撃波にぶつかる瞬間、狼のグレフルが目を閉じて身体をこわばらせた。
「安心しろグレフル。そんなへまはしないぞ」
俺を中心とした渦ができ、それが拡散していくが、ルシルやピカトリス、そしてグレフルにはまったく影響がない。
動物を素通りする魔力配分は難しかったが、生き物の状態に合わせて調整すればよく、それがうまくいった。
「ゼロの魔力調整は流石ね。木だけを伐っていくなんて」
ルシルの言葉に合わせたかのように、一斉に周辺の木々が吹き飛んで倒れる。
「歪んでしまった木は木材としても使い道が難しい。薪や炭にして使うとしようか」
一応伐採した木は使うとして、邪魔な木がなくなったことで視界が一気に開けた。
「ゼロ! いたよ!」
ルシルは思念を飛ばして反応したところを指さす。
「見つけたか!」
ルシルが示す方向には、弱り切っている子羊が足を震わせて立っていた。
子羊は俺が放った衝撃波の影響は当然受けていない。
「モココ!!」
俺は子羊に向かって走り出す。後を付いてくるようにルシルたちも追ってくる。
「ピ……ピィ……」
甲高い鳴き声で俺を見る子羊。
俺が毛並みを揃えてしまったため、肩や足の一部分だけモコモコしている状態だ。
「この刈り具合、やはりモココだな」
子羊は俺の腕の中に収まって、鼻を俺にこすりつける。
「そうだとすると……」
子羊が見ていた先、そこには砕け散った灰が集まって人の形を造り始めた。
「動物じゃないから、ゼロの衝撃波で斬られちゃったのね」
ルシルが言うように、俺の魔力調整した攻撃がラステンには効いたようだ。
「ゼロ君の計算通り、って事かしら。あたしとしては動物……生き物扱いされない人造人間っていうのも残念だけど」
「そう言うなよピカトリス。お陰で簡単に見つけられた」
「まあいいわ」
空気中に舞っていた灰が集まってラステンになった。
「こんなところまで追ってくるとは、創造主様含めて面倒な奴らだな」
ラステンは俺たちを見下すような表情で眺めている。
「なっ、ちょっ! ラステン!!」
ピカトリスも流石にいらだちを表に出す。
「ボクだってただの人形じゃないって事を、創造主様にも教えてあげますよ!!」
ラステンは両手を挙げて黒い雲を作りだした。
「また氷の箱に閉じ込めてやろうか?」
俺は右手を突き出してスキルの発動を準備する。
「できるのか? ボクはさっきまでのボクじゃないんだよ?」
ラステンの不敵な笑みが鼻持ちならない。
「ほう、それがはったりじゃないことを証明するんだな」
俺は抱きかかえている子羊をルシルに託し、今一度ラステンに向き合う。