牧場を造る物語
小一時間も経っただろうか。牧場造りはまだ途中だが、敷地や大まかな構成は見えてきた。
「ふぅ、今回の造成はかなりのものだな」
俺は隣で獣人たちに指示をしていたルシルに話しかける。
ルシルは思念伝達で人間の言語が理解できない獣人たちにも意図を伝えることができた。これはピカトリスも同様で、獣人への指示、命令はルシルたちがやってくれる。
「柵を立てるための杭はだいたい打ち終えたから、綱なり横木なりを渡せば区画はできるよ」
「結構広いよな」
「そうね、でも思念伝達ででも意思疎通をできる相手だからって、広めに確保したのはゼロじゃない」
「まあな。俺たちは好き勝手にいろいろ動けるけど、動物たちはそうもいかないし、外敵からの守りっていう点でも敷地があった方がいいと思ってな」
「私もね、そういう意味なら賛成だけど。そもそも動物たちにいろいろ気を使いすぎなんじゃないかって思うけどね」
ルシルは少しあきれ顔だが、元々人間の命すらあまり重視していない魔族の出身だけあって、動物の命は更にどうでもいいという感覚があるのだろう。
俺も、食料としての、獲物としての動物という扱いはしていたから、今回の事で考えされられたのは事実だが。
「モココたちには戻ってきてもらって、できたら変身の残骸みたいなものを綺麗にしてもらいたいっていう思いはあるから」
「そこまでゼロが責任を感じることじゃないと思うけど」
「でも、ルシルは手伝ってくれているだろう?」
「面白そうだからね」
「ははっ、元魔王としてみれば、かなり人間くさくなったって感じかな」
「ふふっ、そうかもね」
変身の残骸が溜まっている事についても、ルシルは最初、どうせ動物なんて何年も生きていないから、とっとと殺して肉と皮にして使ってしまえばいいのに、とか言っていたけど、それでも俺の考えに乗ってくれた。
「それで、ゼロの方はどうなの? 小屋を建てるとか言っていたけど」
「ああ、俺の方もどうにか。基礎はできたから、後は上物を建てるだけだな。そろそろ木材も用意してこなくちゃな」
「そっか。獣人たちはどう? ゼロは直接指示できないから大変だと思うけど」
「そうでもないさ。そこはラステンが間に入ってくれているからな。それにしても、あのミミズ人間たちの力ってすごいな。地面を掘る事なら、道具もスキルも使わないであっという間にできちまうからな」
「そうね、牧草の扱いとかなら、テントウムシ人間とかカマキリ人間とかも上手にやれているよ」
「畑の方でもいろいろ役立ってくれそうだよな」
「そういう意味じゃあ、耕作人がたくさん増えたって考えると、ピカトリスやラステンの考え方も、あながち間違っていなかったのかもね」
「戦争に使わなければ、だけどな」
「確かに」
「防衛なら、彼らも必死で戦うだろうけど」
「まあね。自分たちを守る戦いなら」
俺は造りかけの牧場で働く獣人たちを眺める。
「自分たちの生活を守るため、生活を豊かにするため、か……」
人間の姿が、そもそも効率的なのかという疑問はあるが、それはなにを現時点で完成形とみるかにもよると思った。
これはルシルの考え、ピカトリスの計画とか、議論してみる余地はあると思う。
空は明るく雲がゆっくりと流れる。
草原に吹く風は俺に草と土の匂いを感じさせた。
「ああ、木材を作っておかなくてはな」
俺は独り言を風に乗せて、ぼんやりと空を眺める。
時間の流れは、ゆっくり。