囲むというのはこういう事
地面から掘り起こしたミミズ人間、空を飛ぶテントウムシ人間やトンボ人間。草原からカマキリ人間なんかも現れた。
「動物だけじゃなく、こんな奴らも人間化したら、いくらでもつくり出せるじゃないか!」
俺はカマキリの鎌を剣で弾き、トンボの鋭い牙をかわす。
ミミズは俺の足をつかみにかかるが、もう少しという所で後ろに跳んで避けた。
「いくらでも出るぞ! わーっはっはっは!!」
ラステンは調子に乗って次々と虫人間を呼び出す。
「ゼロ! ど、どうするのこれ!」
「そりゃあもちろん迎え撃つさ」
「とか言って、さっきから一匹も殺してないじゃん!」
そうなんだよな。ルシルが言うように、俺は獣人たちとの戦いからずっと、一つの命も奪っていない。
「なんだかな、気が引けちゃってな」
「えっ!? そんな甘いこと言ってていいの!? 相手はゼロを殺しにかかってるんだよ!?」
「それが、だ」
俺は相手の攻撃をかわしながら、左手で俺の耳を指さした。
「敵感知が発動していないんだよ」
「え? だとすると、こいつらに殺意がないって事?」
「そうなんだ。だから殺す事に躊躇してしまってね……」
「はぁ……」
ルシルは特大のため息をついて肩を落とす。
「またゼロの甘い考えが出たよ。殺しに来ていないって、それでもまともに攻撃を受けたら、痛いじゃ済まないんだよ?」
「そんな事はないさ。俺がこいつらにダメージを負うようなへまをすると思うのか?」
俺は次々と繰り出される虫たちの攻撃を余裕でかわしながら、ルシルと会話を続けていた。
「くぅ~! ええい、どんどん攻撃すればどんどん相手は疲れるんだから、もっともっと攻撃しなよ! ほらそこ、ぼさっとしない!!」
ラステンは怒鳴り散らすが、兵士を作りすぎたせいで俺の周りは虫人間が列をなしている。
包囲するにもある程度の数しか同時に攻撃はできないし、俺は倒れない上に虫人間たちにも被害は出ていないから、後ろの連中が出てくる隙間もない。
「これじゃあ時間ばかり無駄にかかるよ」
ルシルは俺の背後で、俺と同じように虫人間を蹴散らしていた。獣人たちと戦っていた時と違って、一緒に囲まれてしまっては、戦闘に加わるしかないようだ。
「いい運動にはなるけど、最近身体を動かしてばっかりだから、嬉しくはないんだよね」
「まあそう言うなって。で、座標は判ったか?」
「戦いながらだから面倒だったけど、思念伝達で送るね」
「ありがとう」
ルシルが俺に情報を伝えてくる。
方向、距離、そして高さ。
「Rランクスキル発動、凍結の氷壁六連っ! 囲めっ、氷の壁よっ!!」
俺は指定された座標に凍結の氷壁を生成させる。
六枚の板となった氷の壁は、俺から離れたところで四角い箱になった。
「ふぎゃぁっ!!」
箱の中でラステンの叫び声が聞こえる。
それをきっかけとして、虫人間たちの攻撃が一斉に止んだ。
「捕まえた?」
「ああ。バッチリだ」
俺たちは虫をかき分けて氷の箱に向かう。
「ひいっ、ちべたっ! くそっ、出せっ!! ボクをここから出せよっ!!」
「そう言われて出すわけがないだろう。お前はどんなに切り刻んでも煙になって逃げてしまう。だったら、煙になる前にお前全体をとっ捕まえてしまえばいいって事だ」
「ひぃ、寒……寒い……」
「当然だろう。氷に囲まれて、しかもその氷はそんじょそこらの氷じゃないからな。俺の魔力が作りだした、冷気も放出する特殊な氷だ」
「さ……」
ラステンは氷の箱の中で、寒さに凍えてうずくまってしまった。