無力化の山とうめく獣人
攻めるも地獄、退くも地獄。
獣人たちは戸惑いながらも俺に向かってくる。
「だろうな……。でなければ自分の親玉に殺されるんじゃあな……」
哀れ。獣人たちは悲壮な表情で戦おうとしていた。
「行けよっ! ボクの兵隊たち! さあ行けっ!!」
「ぎゃぁっ!」
ラステンは二の足を踏んでいる獣人の背中に火の玉を浴びせる。獣人は火だるまになってもだえ苦しむ。
「こうなりたくなかったら、お前らもとっとと行くんだよっ!! 行けっ! 殺せっ!!」
「ひっ! も、もうダメだぁ!」
悲鳴にも似た叫び声を上げて獣人たちは突撃をかけてきた。
「こうなっては仕方がない。俺だってただやられる訳にもいかないしな」
俺は獣人たちを迎え撃つため、剣を構える。
「それでも峰打ちで済ませてやろうとは思うが……」
飛びかかってくる獣人たちを、剣の腹や柄で無力化していく。俺は流れるように、舞うように剣を振るう。
「うがぁ!」
「ぎゃわっ!!」
獣人たちはうずくまったり気絶したりして俺の周りに山となっている。
「あれ? こうなったら倒れている奴も危ないな。後から来る奴に踏んづけられるかもしれないし……」
俺の心配というのも変なものだが、この動物たちはラステンにいいように扱われてしまっているだけで、悪い奴らじゃないんだろうから……。
「行けっ! なにをしている!! 突撃しろっ!!」
ラステンは後方で指示を飛ばす。
「う、うがぁ……」
「お、お、おりゃぁ……」
獣人たちがあからさまに動きを鈍らせている。
「あー、そういう事か。なるほどなあ」
俺はなにかを感じてしまった。
「手足を切って無力化させるのもできなくはないが、それには至らんかな。この戦いは俺を倒すことが目的だとして、まあ、俺は倒せないだろうし、とはいえ背後はラステンが殺しにかかるからなあ」
俺の正面に立つ獣人は、明らかに戦意を喪失している。
なんであれば、早く俺に叩かれたい、とでも思っているように。
「う、うが……」
獣人がゆっくりと棍棒を振り下ろす。
誰が見てもゆっくりと判る動きだ。
「解った」
俺は獣人の攻撃を簡単にかわすと、獣人の背後に回って首筋を手刀で打つ。
「が、がぁ」
獣人はわざとらしいくらいにゆっくりと突っ伏して、気絶した振りをする。
そう、振りだ。
俺の方をチラッと見ているから、意識ははっきりしている。
「臭い芝居だな」
そうつぶやきながらも、俺は襲ってくる獣人たちに手刀を当て、軽く蹴りを入れ、剣の鞘で叩いた。
獣人たちも解っている。俺が触れたところを重点的に、苦しんだり気絶をしたように振る舞って、空いている所に倒れていく。
「敵同士、意思の疎通ができているというのも変な気分だ」
中には俺が触れてもいないのに倒れる奴も出てきた。
結果、俺に向かって攻めに行って、俺に返り討ちにされたという形だけできれば、自分たちは命を失わないで済むというのが、獣人たちには暗黙の了解として広まっていく。
「茶番ね……」
ルシルのつぶやきが遠くから聞こえた。