無残な司令官
ラステンは周りの獣人たちに指示を飛ばす。
「とっとと行くんだよ! あの小生意気な人間を討ち取るんだ!」
ラステンの指示に従って、まだまだ残っている獣人たちが俺に向かって襲ってくる。
「おい、さっきも言ったよな。俺が本気を出せばこいつらを無力化できるって事をさ」
「できるものならやってみるんだな!」
ラステンは高ぶった気持ちのまま、周りの兵士たちに檄を飛ばす。
「いいかお前ら! 戦いは数だ! 力押しで突き進めば、想いは叶う!!」
「お、おお……」
ラステンの声に兵士たちが反応する。
「お前たちの成したい事、遂げたい物、それは戦いの先に必ずある!」
「おお……」
「それをつかみ取れ! 栄誉と報酬を手にして、望みを叶えるのだ!」
「おお!!」
意気の上がった兵士たちは目の色を変えて俺に襲いかかってきた。
「だから無駄だと言っただろう。Sランクスキル発動、剣撃波! 切り裂く前に無力化する程度に……打ちのめせっ!」
俺の放った剣撃が襲ってくる獣人立ちに突き刺さる。命には別状がないくらいの攻撃だが、剣撃で手足を撃ち抜かれて行動が制限される。
足に傷を受ければ歩けなくなるし、手を攻撃されれば武器を振るうことができなくなる訳だ。
「くっ、これしきで……ボクの兵士たちが負けるわけがないっ!! 行けっ、ボクの兵士たちよっ!!」
ラステンがわめき散らすも、俺の攻撃で無力化された兵士たちは当然動けない。元々攻撃意思の低い連中は、命令を受けても二の足を踏んでいる様子だ。
「どうしたっ! ボクが命令したんだから実行しろよ!」
「で、でもラステン様……」
兵士の中からラステンに進言する者もいる。角を生やした山羊の獣人だ。
「我らではあやつに勝てる見込みは……」
「そんな事は解っているんだよっ!! でも、あいつだって生物、生き物だろ!?」
「は、はい……」
山羊の獣人はそれでも俺への攻撃に躊躇する。
「数を使えばどんな奴だって倒せるんだよ!」
「ラステン様、それって……」
ラステンは俺に向かって指さした。
「あいつだって人間だ。眠りもするし食事だってする」
「はい……」
「生きている限りは、それだけの事は必要になるだろう?」
「ええ」
「だがな、お前たちが戦い続ける事で、奴にそれをさせない、という事ができる」
「えっ!?」
ラステンは意地の悪い構想を持ちかける。
それがこれだ。
「お前らが行って、奴を疲弊させてくるんだよ!」
「で、でもラステン様……」
「でももへったくれもあるかっ! 弱いながらも数を集めるって言うのはそういう事なんだよ! ボクのために尽くして、戦って、死んでいけよっ!」
「えっ、ええっ!?」
ラステンが言い放った内容は極論だが、それはこれからの戦いに大きな影を残す。
「お前らが死ねば、誰かがその後を継ぐ! その次がいるのは数がいるから! だんだんと疲れてくるはず! 傷も負っていくはずだ! だとすれば、一気に攻め寄せようとしなくとも絶え間ない攻撃で疲れさせればいいんだ! それが繰り返されれば、どんな強さを持っていようとも、ボクたちはには勝ち目が出てくるんだよ!」
「で、でもラステン様、それだと俺たちは……」
「もちろん死ねっ! 死んで次の者に引き継ぐんだよっ! 言う事を聞かないと……こうだぞっ!」
ラステンは周りの獣人、兵士たちが攻めあぐねているのを見ると、いきなりそいつを攻撃した。
「なにをやっているんだ! お前の兵たちだろうが!!」
流石に俺もこれには戸惑う。
「攻めない者は責めを負うのだっ! 奴を攻撃しないのなら、ボクが殺してやるからなっ!!」
ラステンの金切り声に、獣人たちも不安を募らせたようだった。