王たる者の心意気
ラステンは今の状況に理解が追いつかないようだ。それもそうだろう、俺の周りにいた羊人間たちが次々と戦意を喪失し、俺の味方になったというのだから。
「なっ、いったいどうしたことだ! 兵士たちよ、ボクに従えっ!!」
「無駄だぞラステン」
俺はラステンに向き合う。俺が警戒する相手は目の前にいる連中。もう共に畑を耕した羊たちとは敵対しなくて済む。
「流石にラステン、お前が連れている連中までも俺の王者の契約者の影響内に納める事は難しいだろうが」
俺は周りに視線を向ける。
「俺と共に過ごした仲間たちは、お前の呪縛から解き放たれ、俺とともに歩む事を望んだ!」
「なにぃっ! 兵士たちよ、武器を持ってあの小生意気な人間を討ち取れっ!!」
「無駄だと言ったぞ」
どれだけラステンが吠えようとも、もう俺の周りにいる羊たちは俺を襲う事はない。
「なっ、どういうことだ!」
どれだけラステンが吠えようとも、羊たちは俺に牙を向ける事はなかった。
「見た通りだ。お前には彼女らを支配する事はできないんだ」
「そ、そんな……」
俺は自分に対して敵対する意思が減ったところで、ラステンに問いかける。
「それよりも、だ。ラステン、お前に王のなんたるかを教えてやろうか?」
「王……だと!?」
「そうだ。人を束ねる、まとめる、そして導くという者のさだめを教えてやろうというのだ」
「なにをほざくっ! ボクの兵士たちはボクの私兵! それを奪う事は言語道断だぞ!」
「馬鹿を言うな。個人は個人、それぞれの意思で自分の命をどう燃やすかを決めるんだ。誰かに操られて済ませるようなものではない!」
「馬鹿を言っているのはお前の方だぞ人間っ! ボクは見捨てられた動物も保護しているし、これからも続けるんだ!」
力説するラステン。そこに俺は疑問を投げかける事ができるのか。
「それはお前が兵士たちの上に君臨する事が目的なんじゃないか? ただ自分の欲望を満たすために」
「森の住人と共に活躍できるようにするのであって、今まさになにか形を作らなければ……」
「なるほどな、それが彼らの意思に沿うものならば、俺は口を挟む必要もないのだが」
「ぐっ……」
言いよどむラステン。判る気はする。無力な民を支える国というのはそういうものかもしれない。
「お前の言っている事は、俺にも理解できる事だ。だが、お前のやり方は俺の理解できる事ではない!」
俺は剣を抜き、戦闘態勢をとる。
「ラステン、お前に操られている連中に害はないことは理解した。なればこそだ、俺が救いの手を差し伸べてやることには否やはあるまい」
俺は剣を振るう。
俺の剣は宙を斬り、そこから衝撃波が発生する。
「ぐぎゃぁ!」
「ぎゃぁぁ!」
ラステンの周りにいる獣人たちは、俺の剣撃を受けて倒れていく。
「なっ、なにをした……」
「峰打ちだ。死にはしないだろうが」
俺は剣を鞘に納めながら、ラステンに言う。
「お前の兵たちは俺が無力化した。剣撃でも命を奪わない程度にしてやっているが、もう戦うことはできないだろうな」
俺は衝撃波を発したものの、殺すまでには至らない攻撃力で獣人たちを吹き飛ばしていった。
「いいかラステン。俺はこうやって、殺さないまでも手加減をして兵たちを無力化することくらいはできるんだが……それでも兵数を力と考えて迫ってくると言うのか?」
にらみながらも、俺は落ち着いて話すことにしてた。ラステンは始め眉間に皺を寄せていたが、徐々に柔和な顔になっていった。
「ほう、理解したようだが?」
俺の言葉に、ラステンが被せる。
「なるほど、解っていないのはお前たちの方だな」
「なに、いったいなにを言っているんだ……」
ラステンの言葉は、俺の中に鋭い爪痕を残した。