学術都市エイブモズ
俺たちは町の前の門に到着する。
柵に囲われた町でその奥にはいくつもの背の高い建物が見えた。奥にはひときわ目立つ尖塔まである。
「追ってくるゾンビはいない、な」
俺は後ろを振り返りゾンビたちが見えない事を確認した。
追ってきても動きの遅い連中だ。荷馬車の速度には到底及ばないから追いつくまでに時間はかかるだろう。
「開門願いたい! 俺たちは旅の商人だ、開門願いたい!」
俺は見張り台に向かって大声で呼びかける。
「しっ! 静かにしろ! 今開けてやるから……」
門の内側から声を潜めた返事があった。
ゆっくりと扉が横に動き、入り口が開き始める。
「うるさくすると奴らが押し寄せてくるからな、静かに頼むぞ」
扉の内側から出てきた男が俺に注意を促す。青ざめた顔は不健康そうにも見えた。
「そうか、判った。奴らというのは俺たちも街道の途中で見かけたが、ゾンビの事か?」
男はばつが悪そうに顔を背ける。
「見てきたのか。それなら話は早いが、奴らは本能のままに人も家畜も食い荒らす野獣と化した者たちだ」
男は説明しながらも俺たちの荷馬車を柵の中に入れるように手を招き入れる形で合図する。
俺たちはその合図に従って柵をくぐると、男が門を閉めた。
「ただ聞くところによれば、奴らはこのエイブモズからは遠く離れた場所には現れないらしい」
「なるほど言われてみればそうだ。迷宮のモンスターでもあるまいし、街道や森の中で野良ゾンビを見かけることは少ないな。なのにあれだけの個体数がいるというのもおかしい話だ」
「そ、そうなんだな。そんなにたくさんいたのか」
「ああ、あいつらが一斉に襲いかかってきたらこんな柵などひとたまりもないがな」
「それは大変だな」
「そうならない事を願うよ。ともかく、ようこそ学術都市エイブモズへようこそ」
形だけの挨拶を最後に加えて門番をやっている男は見張り台へ戻っていった。
「さてと、これからどうするかという所だが、シルヴィアはこの町の商会へ行くのだな?」
「ええ。商売許可の手続きをしてきます。カインは一緒に行く?」
「うん、ボクもお姉ちゃんと一緒に手続きをしに行くよ……」
「そうか。さっきから具合悪そうだが、大丈夫か」
少し元気のなさそうなカインを心配する。
「平気、だよ。ちょっと疲れただけ」
「それならいいが。今夜はゆっくり休もう。俺は一通り町を見てこようかと思うが、ルシルも行くか?」
「一緒に行くわ。一度集まる宿屋を決めましょう。私も疲れたから」
ルシルは中央通りにある建物を指さす。
「あの宿なんてどうかしら。泊まらないにしても日暮れには食堂で合流しましょうよ」
「それでいいかなシルヴィア、カイン」
「ええ、そうしましょう」
こうして俺とルシルは町の散策に、シルヴィアとカインは商会へ手続きにと、それぞれで別行動する事になった。
「ルシル、先ずはこの町の研究所かどこか、錬金術を研究しているという所を探そう。ピカトリスの情報が得られるかもしれないし、そうでなくとも人体錬成について何か手がかりがあるかもしれない」
「そうね。学術都市と言うくらいだから期待しておくわ」
俺たちは取りかかりとして、先程ルシルが指定した宿屋へ向かった。
宿の人間であれば外部から来た俺たちとも話がしやすいだろうし、町の事もある程度教えてくれそうだと思ったからだ。
「言える範囲で、だろうがな」