迫り来る大軍
大勢の獣人がラステンの周りに集まってくる。羊っぽい奴もいれば、山羊や牛のような者もいる。
中には猪のような獣人もいるが、こうなるとオークと見分けが付かないか。犬の獣人はコボルトのようにも見える。
「かなり大勢引き連れてきたようだな」
「そうとも。ボクが集めた連中は森や平原にたくさんいるからね。それを軍隊に仕立てるなんて、人間を集めるしかない国々とは、文字通り桁違いの戦力というわけさ!」
得意気な顔でラステンが俺を見るが、おそらくこいつもさっき俺が斬ったような、空虚な奴なのかもしれない。
「ラステンとか言ったな」
「なんだい? ボクの力に恐れをなして、早くも降伏するつもりかい?」
「俺に斬られておいてよく言うな」
「あれはキミの力量を測るためにあえて斬らせた影だからね」
「強がる分にはいくらでも大きく言えるさ」
「ははっ、それはお互い様だろう」
俺が無駄とも思えるような会話を続けているのは、俺たちの間にいる羊たちを避難させるためだ。
自力で逃げられる奴は任せるとして、苦しがって起き上がれもしない連中は狼たちが助けてくれた。首の後ろを甘噛みして、ゆっくりと引きずってくれていたのだ。
「おやおや、いつのまにやらボクたちの間に動物がいなくなったねえ」
「お前の攻撃に付き合うつもりはないのでな」
俺は影ながら支援をしてくれたグレフルたちに視線で礼を伝える。グレフルは解ってくれたようで、小さくうなずいて俺の後方へと下がった。
「ボクの戦力になるはずだった動物たちなのになあ」
「ほざけ。そう簡単にさせてやるかよ」
広くなった場所で俺はゆっくりとラステンへ向かう。
ラステンの周りにいる獣人たちは俺の行動に疑問を持ったようでザワザワと騒ぐが、中には戦闘態勢をとる奴も出てきた。
「まさか単独でやってくるとは思わない、よな?」
「くっくっく……この大軍を前にして物怖じしないとはたいした度胸だよ」
「よくある状況だからな、もう慣れた」
「ほう? ならばこれもかな!?」
ラステンは右手を高く上げる。
「さあボクの兵隊たちよ! その生意気な男をやっつけちゃいな!!」
ラステンの周囲だけではなく、俺の周りにも気配が感じられた。
「さっき、退かせた奴を……お前っ!」
俺の近くに寄ってきたのはモココの仲間の羊たち。人間の姿で、手に農具や木の棒を尖らせた槍を持って近づいてくる。
「さあ、まずはその羊ちゃんたちが相手になるよ! 倒せるかな? 殺せるかなぁ!?」
ラステンは下卑た笑いで俺の神経を逆撫でしようとするが、俺は深呼吸をしてその手には乗らない。
「それくらいで俺は止められないぞ」
「別に構わないさ! 兵隊はいくらでも作れるからね!」
ジリジリと女の子の姿をした羊たちが迫ってくる。
「さあさあ、どうするかなぁ!?」
羊たちは操られているのだろうか。みんな苦しそうにしているが、倒れる事も許されないかのように、重い足取りで歩いている。
「この事から見ても、お前が諸悪の根源、らしいな」
俺の言葉に不敵な笑みを返すラステン。
「将たる者は兵隊個人の事なんていちいち面倒見ないものだよねえ。さあ、ボクの兵隊たち、こいつに自分の愚かさを思い知らせてやってよ!!」
その一言が合図となって、羊たちは俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。